■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。朝日新聞デジタルマガジン&Travelの連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。 (文:大橋知沙/写真:津久井珠美)
朝市、骨董(こっとう)市、手作り市、店の軒先で開催する小さなマルシェなど、京都では毎週のようにどこかで“◯◯市”が開かれています。今年4月、京都の数ある市に新たに加わったのが「平安蚤(のみ)の市」。平安神宮前という絶好のロケーションで開催される新しい蚤の市に、早速宝探しに出かけました。
毎月10日前後。北に平安神宮の応天門、南に大鳥居をのぞむ岡崎公園に、鮮やかなのぼりが立ちます。レトロな印象ながらも、どこか陽気で新鮮なムード漂う「平安蚤の市」の文字に吸い寄せられるように、広場を行き交う人々が足を止め、野外に広げられたさまざまな品をのぞきこみます。
ヨーロッパの陶器やたたずまいの美しい民具など、洗練された古いものを並べる店がある一方で、箱のままがちゃがちゃと置かれた食器やパーツ類、千円台から積み重なる着物や帯、骨董好きやコレクターに根強い人気の古伊万里など、古き良き骨董市の出店風景も。
「『この人何モンなんやろ?』って人がいるのが、蚤の市やと思うんです」
平安蚤の市を主催する京都の古道具店「Soil(ソイル)」の店主で、自身も海外の蚤の市などで古物を買い付けている仲平誠さんはそう話します。
「出店者は20代の若手から上は70代まで。同世代の古道具仲間は共感し合えますが、やっぱり上の年代の方がいてくれると締まります。どっちも同じ舞台に立って混ぜこぜになっている蚤の市が、京都にはないと感じたんです」
これまで、店主の感性や世界観に共感する若手の古道具店だけを集めたマーケットを何度か主催してきた仲平さん。編集されたイベントの良さも理解したうえで、今、京都に根付かせたいのは年齢もジャンルも越えた、多様性そのもののような市だと気付きました。
参道の両側と広場に、約150店の古いものの店が並びます。京都市内のアンティークショップや骨董店はもちろん、東京、名古屋、滋賀、岡山などさまざまなエリアから、和洋問わず古いものを扱う店が集まります。出店条件は、古物の販売と古物商の許可を受けていることのみ。自由で、雑多で、あらゆる価値と人種が混ざり合う蚤の市独特のおもしろさがそこから生まれます。
「仕事柄、海外の蚤の市をよく訪ねますが、多くの国では大抵“自分たちの国の古いもの”を売っています。でも日本人の古道具屋の感性はちょっと独特です。日本のものと海外のものを組み合わせたり、何かに見立てたり、質感に目をつけたりするのがすごくうまい。平安蚤の市が世界中から人が訪れる市になって、“日本人が選んだもの”を広く世界に見てもらえる場にしていきたいんです」
京都には、毎月開催される縁日や骨董市が数多くあります。毎月開催することで、地元の人に親しまれ、旅行客でも訪れやすい蚤の市になることが、仲平さんの目下の願い。いえ、既に、取材中何人も友人知人に出くわすほど、平安蚤の市は京都の市の新定番となりつつあります。
海外のガイドブックに決まって掲載されるような蚤の市。古いもの好きだけでなく広く市民や旅行客に開かれ、それでいてその国の文化やセンスが息づくマーケットは、散策するだけでワクワクするものです。平安蚤の市は、日本人のユニークな審美眼と、がらくたと宝物が混じり合う雑多な雰囲気を楽しめる“日本の蚤の市”として、今まさに一歩を踏み出したところ。美しいものを前に、年齢も国境も時代も関係なく共感できる喜びをぜひ体験してみてください。(撮影:津久井珠美)
平安蚤の市(岡崎公園 平安神宮前広場にて毎月10日前後開催)
https://www.heiannominoichi.jp
※雨天決行。荒天の場合は中止。開催情報はホームページかインスタグラムにて