ここからしか見えない京都
  

第20回「芋名月と豊作の彩/ 西ノ京御旅所」

中秋の名月。今年のお月さまもとってもきれいでした。
十五夜の月は、芋名月とも呼ばれます。
お月見といえば、三方(さんぼう、神仏へのお供えを載せるための台)に積まれたお月見団子。丸い形のお団子は、もちろん、お月さまの表現です。
京都の和菓子屋さんで売っているお月見団子の多くは円錐形をしていて、赤ちゃんのおくるみのようなこしあんつき。これは雲の間から顔を出すお月さまを表現しているのだ、とずっと思っていたのですが、土つきの里芋を見立てた、と聞いて驚いたのを覚えています。
芋名月の名の通り、実際にお芋をお供えすることもあるようです。

京都の和菓子屋さんのお月見団子。里芋の形に見立てられている。

さて、今年の十五夜の翌々日のこと。
たまたまいつもと違う道を通りましたら、お神輿に出会いました。
後で調べてみると、10月1日は北野天満宮のずいき祭りの初日で、出会ったのは「ずいき神輿」とのこと。

個性的なお神輿で、初めはまさか、と思いましたが、本当にあの「ずいき」がお神輿を飾っているのです。ずいきとは、里芋の茎。スーパーや八百屋さんにも時折並ぶお野菜です。
お祭りの期間中、ずいき神輿を西ノ京御旅所で見られると知って早速出かけてみました。

それにしても大迫力!
元気いっぱいで、華やかで。みずみずしく艶やかな赤ずいきと白ずいきの屋根、獅子頭は唐の芋の頭芋、赤茄子や五色唐辛子、ミョウガなど本物のお野菜を使った装飾品。ひときわ鮮やかな紫の柱は、千日紅。
どれも西ノ京地域で大切に栽培・収穫されたお野菜や花々です。
秋の収穫の喜びが色とりどりの農作物を通して表現されていて、今にもこぼれそうなほどに豊かにお神輿を飾っています。

このお祭りは、平安時代に西ノ京の人々が五穀豊穣を感謝し、新穀や野菜を飾りつけ、菅原道真公の神前にお供えしたことが始まりで、北野天満宮の社殿が再建された1607年にお神輿の形となったのだそうです。

10月4日には、お神輿が御霊をのせて北野天満宮に戻る還幸祭が行われ、装飾は土に還ります。

さて、中秋の名月である芋名月の次に来る満月は、枝豆や栗をお供えする豆名月、栗名月です。このお便りを書いている今も、既に月はわずかに欠け始めており、またやがて満ちてゆきます。

秋の実りと収穫の喜びを、お月さまに感謝する。

ふと筆を止めて窓の外をのぞくと、ちゃんと見てくれているお月さま。
なんだかほっとして、また筆を進めることができます。

静かなお月見も素敵ですが、ずいき祭りのお神輿に出会って、今年の豆名月には、心だけでももっと鮮やかに華やかに、家族や大切な人と共に祝い、喜びをかみしめて過ごしたいと思いました。

この記事を書いた人
定家亜由子
 
京都在住の日本画家。伝統画材にて花を描く。
高野山大本山寶壽院 襖絵奉納
白沙村荘 橋本関雪記念館 定家亜由子展等、個展多数。
画文集『美しいものを、美しく 定家亜由子の日本画の世界』(淡交社) 刊行。  
 

タグ一覧

#人気ワード