今年も紅葉美しい京都です。前回のエッセイでは近代日本画の巨匠・竹内栖鳳と京都市京セラ美術館で開催された展覧会についてお便りさせていただきました。
第21回「日本画家 竹内栖鳳と出会う / 京都市京セラ美術館」
https://www.kyoto-tokutoseki.jp/feature/hanadayori/2023/11/13/3714/
今回も栖鳳のことを少しつづりたいと思います。この展覧会には、私が日本画家を志すよりも前から、ずっと好きだった作品も展示されていました。栖鳳の最晩年の作品、虎とソテツをモチーフに描いた「雄風」です。
「雄風」とは、勢いよく吹く気持ちの良い風のこと。また、力強く雄々しい様子のことを言うそうです。驚くのは、これが栖鳳最晩年の作品であること。亡くなる2年前に描いたとは思えない筆の勢いと色彩の透明感に魅了されます。
栖鳳の動物画は「匂いまで描く」と、当時より人々を驚かせてきました。特に、30代でヨーロッパへ渡り、帰国後に描いた獅子(ライオン)をはじめ、栖鳳が得意とした虎などの動物画の毛描きや量感からは、野生の獣の強い匂いまで漂ってきそうな迫力とリアリティがあります。それが晩年になるほど、たとえ同じ虎を描いていても、獣の匂いだけではなく、澄んだ風や光の香りまで感じられ、心地よく爽やかな印象に変化している気がします。
私は、美しい絵には共通して、良い香りがあると感じています。
栖鳳の描く絵の香りに感じ入るうちに、まるで自分自身が風になって、その芳香をまといながら絵の中をたゆたうような心地となるのです。
竹内栖鳳に導かれた画家として、西山翠嶂(にしやま・すいしょう)や上村松園、西村五雲、土田麦僊(つちだ・ばくせん)、村上華岳、入江波光(いりえ・はこう)、福田平八郎、徳岡神泉などがいます。多くの素晴らしい後進を育てながら、自らも最後まで精力的に画壇の中心で描き続けた栖鳳。
栖鳳が眠る場所は、京都の方々が「くろ谷さん」と呼ぶ、浄土宗大本山・くろ谷 金戒光明寺にあります。京都市京セラ美術館からは車で5分、徒歩で15分ほどです。
その墓所は、穏やかな山の斜面にありました。敷地内の極楽橋を渡って石段をひたすら登ると、てっぺんには国の重要文化財である三重塔(文殊塔)があり、向かって左に栖鳳のお墓はあります。
風の通り道のような場所です。京都市街も一望できるほど見晴らしが良く、気持ちの良いところで、栖鳳さんが見ているこの景色に出会うために来たような気分になりました。
澄んだ風が吹き抜けてゆき、お墓の向こうに目をやると、まぶしいほど鮮やかな青空がどこまでも続いています。栖鳳が絵を通して伝えてくれる爽やかな風の香りを、私も誰かの心へつなぐことができたらどんなに素晴らしいでしょうか。
もしも、栖鳳や京都の近代日本画に少しでも興味をお持ちの方がいらしたら、美術館と一緒に栖鳳に縁のあるお寺や土地を訪ねられるのもまた一興かと思います。