京都も寒さが少し和らいで、日差しにも暖かな春を感じるようになってきました。
各地で梅の見頃を迎えていますが、私が大好きな梅の一つ、下鴨神社境内にある御手洗川と呼ばれる川の袂に咲く「光琳の梅」も満開になっています。
「光琳の梅」といえば、江戸時代の天才絵師・尾形光琳の最高傑作の一つである国宝「紅白梅図屏風」が有名です。「光琳の梅」と呼ばれているのは、尾形光琳がこの梅をモデルに屏風絵を描いたという説があるから。この梅が花咲くと、多くの参拝の方が足を止めて、梅と流水のある景色を楽しまれます。
「光琳の梅」に惹かれて集うのは人間だけではありません。数年前のことですが、まだお詣りや観光の方々が少ない朝の時間帯、「光琳の梅」にたくさんの小鳥たちが集まり、枝で遊ぶように飛び回っているのに出会ったことがありました。メジロやシジュウカラなどが逃げることもなく時々入れ替わりながら、さえずりもにぎやかに、10羽以上はいたと思います。満開の梅の香りに包まれて、カラフルな絵本の中に入り込んだような体験に、とても感激したことを覚えています。
ところで、人や鳥が集う「光琳の梅」の景色と比べてみると、尾形光琳の描いた「紅白梅図屏風」はなんと静かな景色でしょうか。
2本の梅の木と装飾的な流水以外は何も描かれておらず、金箔の余白のみで非常にシンプルです。実際には描かれずとも、余白などから気配を感じさせるというのが、多くの名画名品の特徴の一つと私は考えているのですが、光琳の「紅白梅図屏風」の余白からは、モチーフ以外のいのちの気配、例えば人や鳥の音や温度があまり感じられないのかなと思いました。
私がはたと思ったのは、この屏風を飾り梅見に集う人たちが、超立体的に作品の一部になることをイメージして光琳は作品を仕上げたのではないかということです。屏風の前で心静かに梅見をすることもあれば、時には盃を交わすにぎやかな宴会も行われたかもしれません。よく晴れてのんびりした日には、軒先から聞こえる小鳥のさえずりが風景の一部になったでしょう。
梅の木が出会う縁はその梅の木だけが知っていて、植えた人も、描いた人も知る由がないこと。梅の木を植えるように梅の木を描いた尾形光琳。私もそんなふうに花や木を描けたらと憧れます。下鴨神社で「光琳の梅」がそっと教えてくれた、すてきな発見でした。