仏教の伝来とともに日本にやってきたとされるお香は、時代を経る中で教養や娯楽などの文化として開花し、また茶道にも深く関わってきました。今回、常盤貴子さんを“香りの旅”に案内するのは表千家茶道家・千葉吉美(ちば よしみ)さん。千葉さん御用達の店をたずね、新たな香りの世界を巡ります。
京都御苑の南、烏丸通に面した「香老舗 松栄堂(こうろうほ しょうえいどう)」は、創業300年を超えるお香の老舗。宗教用の薫香からルームフレグランス用まで、お香を中心に、香りにまつわるあらゆるものを扱っています。お香の原料として使用されるのは、香木や樹脂、葉、貝などの天然香料で、入手困難なものも少なくありません。これらの素材を複雑に調合してつくられる松栄堂の香りは、現在200種類以上。香りのレシピは門外不出で、各香料の配合を記した調合帳が代々受け継がれています。常盤さんと千葉さんはこちらで聞香(もんこう)を体験しました。使う香木は沈香(じんこう)で、正式名は沈水香木(じんすいこうぼく)。「水に沈む、香りのする木」という意味で、原産地はインドシナ半島やインドネシアなどの熱帯雨林。さまざまな要因によって樹脂が木質部分に凝結し、樹木が枯れていくなかで熟成されたものです。今回は2種類の沈香を鑑賞したお二人。それぞれの香りの個性を感じたまま、言葉で表現します。松栄堂では2018年に香りのミュージアム「薫習館(くんじゅうかん)」をオープンし、日本の香り文化を世界に発信しています。
中京区の三条通にある「石黒香舗(いしぐろこうほ)」は、日本で唯一の“にほひ袋”の専門店です。“にほひ袋”とは、常温で楽しむお香の一種。白檀(びゃくだん)や丁子(ちょうじ)など、常温でも香る天然香料を細かく刻んで、調合したものを袋に詰めています。店内には色も形もさまざまなものが並び、実演販売も行われています。巾着の袋地と紐を選んだら好きな香りを詰めて、オリジナルの“にほひ袋”が完成。旅の思い出にぴったりなおみやげ品です。
下京区の東本願寺南隣にある日本料理店「いと」は、2019年3月オープン。築100年余りの京町家をリノベーションした建物で、お客を迎える前にお香を焚いて、上品な和の香りでもてなします。店主の野口翔平(のぐち しょうへい)さんは、フランスや大阪の星付きのレストランで修業。メニューには和食の献立に、フレンチの技法をとりいれた斬新な料理が並びます。昼夜ともに月替わりのおまかせコースのみ。上質な食材にとことんこだわり、香りはもちろん、その持ち味を満喫することができます。締めには“幻の米”ともいわれる「旭一号」を使った炊き込みご飯が登場します。料理を引き立てるお酒のラインアップも充実し、なかでも日本酒は新潟の八海醸造ほか、京都の酒蔵などの銘酒が用意されています。
京都市中京区の烏丸通沿いの「サンガインセンス本店 香煙研究所(こうえんけんきゅうじょ)」は創作線香の専門店。工房と売り場を併設する店内には、ここでしか出会えない香りが漂います。店主の橋本勝洋(はしもと かつひろ)さんは世界中を旅していた頃、人の歴史とともに歩んできた世界各国の香りに魅せられ、香りの世界へ。最大の特徴は橋本さんが、自ら世界中で採取してきたハーブ、香木、スパイス、鉱石など天然素材を使っていること。さらに宇宙へと飛ばした気球に乗せた麻炭(あさずみ)を使った創作線香「皆既日食」や、薬草のキャットニップやキャットフード用のハーブのみを使って調香した猫専用線香など、独自に研究を重ねる中から生み出されたオリジナルの香りは、独創性にあふれ、国内外から注目されています。
【次回放送情報】
■京都画報 第31回「京都の香りに触れる春 -聞いて見て食する香り-」
BS11にて4月10日(水)よる8時00分~8時55分放送
出演:常盤貴子
※ 放送後、BS11+にて4月14日(日)正午~ 2週間限定で見逃し配信いたします。