美しい風景、豊かな文化、歴史的な名所で多くの人々を魅了している日本屈指の観光都市、京都。
大河ドラマ『光る君へ』の放送が始まり、あらためて京都に注目している方も多いのではないでしょうか?
――と、前回と同じ書き出しで、すみません。
今年の大河ドラマの主役、紫式部ゆかりの地を案内させていただく連載を始めようと張り切ったにも関わらず、先月は小説原稿の方が忙しく、お休みをいただいてしまいました。
その間、大河ドラマ『光る君へ』はますますの盛り上がりを見せているではないですか。
さてさて、縁の地を紹介する第二段。
今回は、『洛西』をご紹介させていただきます。
また、『源氏物語』の光の君ですが、光の君と書くとドラマと混合して紛らわしいので、分かりやすく光源氏と書かせていただきます。
6. 嵐山・亀山公園
こちらは、『明石の君』がひと時過ごした場所とされています。
ちなみに明石の君は、光源氏の側室の一人です。
『源氏物語』の光源氏には、たくさんの妻がいるのですが、その中で私が一番好きなのは、紫の上です。
紫の上は、高貴な生まれなのですが不遇の生い立ちであり、山で祖母と暮らしているところを光源氏に見付かってしまい、「おお、私の愛する人(藤壺の女御)に似ている。理想の女性に育てよう」と引き取られ、光源氏に育てられたという物語の象徴ともいえる姫君です。
光源氏の思惑叶い、素敵な女性に育った紫の上ですが、光源氏の心はいつも満たされず、浮ついているため、紫の上は常に心を痛めています。
一夫多妻が許された時代、大体の場合が、どんな女性なのだろうと邸で悶々と想像しながら帰りを待つしかないのですが、紫の上には唯一直接対面し、互いを認め合った戦友のような存在がいました。
それが明石の君です。
(二人が認め合うシーンは胸が熱くなります)
明石の君は、光源氏が須磨に流れた際、明石で出会った美しく聡明な女性です。
彼女は光の君との子どもを出産後、上京するのですが、光源氏の屋敷で一緒に暮らすわけではなく、しばらくは嵐山の亀山公園辺りに住んでいたそうです。
嵐山といえば、春は桜、秋は紅葉が美しい京都を代表する観光名所。
亀山公園は、渡月橋の北西にありまして、保津川を見渡せる展望台もあります。
紫式部が生きた平安時代から絶好の景勝地として親しまれてきたそうで、もしかしたら、紫式部もこの地を散策して、『明石の君の住まいはこの辺にしよう』と構想を練ったかもしれないと思うと、おこがましくも親近感がわいてきます。
7. 野宮神社
嵐山まで来たなら、野宮神社にも足を延ばしていただきたい。
紫式部は、光源氏の行き過ぎた恋に、しっかり代償を負わせています。
そのひとつが、六条御息所との恋。
六条御息所は、年上の聡明な女性。
最初はクールな彼女でしたが、やがて光源氏への想いを募らせて、生霊を放ってしまうほど追いつけられてしまいます。
自分が生霊まで飛ばしていたことを知った六条御息所は、光源氏と別れる決意をするのですが、その別れのシーンがこの野宮神社なんですよね。
なぜ、野宮神社なのかというと、六条御息所の娘が伊勢神宮の斎宮になったのです。
斎宮は身の潔斎をするために野宮神社に留まるわけで、母である六条御息所も付き添っていました。
そして、自分も伊勢へ下ることで、光源氏に別れを告げるわけです。
別れるには物理的にも距離を置いた方がいいというのは、今も昔も変わらないようです。
それにしても、別れのシーンが身の潔斎をする野宮神社とは、ピッタリでドラマチックですね。
8. 仁和寺
いわずもがな、御室桜で有名な仁和寺。
こちらは、光源氏の異母兄が出家したお寺です。
私は、この兄が不憫で不憫で……。
兄には、朧月夜という美しく快活な尚侍(帝の秘書)を溺愛していたのですが、ひょんなことから超美形の弟・光源氏と朧月夜が出会ってしまい、瞬く間に恋に落ちてしまうわけです。
お兄ちゃん、大ショック!なのに、弟のことも恋人のことも責めません。
ちなみに朧月夜は、光源氏の母の天敵である弘徽殿の女御の妹。光源氏にとっても政敵です。
許されざる関係にもほどがあり、この火遊びのような恋の代償は大きく、光源氏は須磨に蟄居となりました。(そして明石の君と出会うというループなのですが……)
それはさておき、どこまでも優しかった光源氏の異母兄が出家したのが、仁和寺だそうです。
(そんな朱雀帝の娘が、女三宮なのですから、いやはや因果なものです)
*
あらためて、書かせていただくと、『源氏物語』は日本で最初の『京都舞台のキャラクター小説』といえるのかもしれないと思いました。
それぞれのシーンにぴたりと当て嵌まる舞台が用意されていて、本当に素晴らしいと唸らされます。
大河もまだまだこれからということで、『ゆかりの地紹介』は、次回も続きます。
どうぞよろしくお願いいたします。
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