京都の人々の生活に溶け込む“おあつらえ”の文化。熟練の職人や作家に依頼して、自分だけの特別な品を仕立てる、大人の楽しみです。職人の繊細な手仕事が生み出す京うちわや履物、そして、好きな物を好きな量だけ楽しむ、おあつらえのグルメ……。今回、常盤貴子さんが暮らしを豊かにする“京都のおあつらえ”を体験します。
京都の夏といえば“京うちわ”。中京区に店を構える「京うちわ 阿以波(あいば)」は、江戸時代中期に創業。およそ330年の歴史を誇る老舗の京うちわ専門店です。熟練した職人たちが制作する京うちわは、優美さと高い装飾性を持ち、インテリアとしても人気です。常盤さんもかねてよりあつらえてみたいと思っていたという、憧れの京うちわをオーダー。完成までは2週間ほどですが、あつらえた特別な京うちわを持ち、夏の京都を旅するのが待ち遠しいようです。
モノだけでなく、食の“おあつらえ”を楽しめるのが東山区祇園にある「Ristorante t.v.b」。店にはメニューがなく、用意した食材の中から、お客に食べたいものを選んでもらい、それを形にするのがコンセプトなのだとか。前菜でも食材は常に30種を用意しています。常盤さんは、タケノコや新玉ねぎなど旬の食材を使った前菜を3品、さらにフルーツトマトにイチゴを使ったデザート感覚のパスタと、自家製手打ち麵を使ったハマグリと春キャベツのリングイネッテの2品をオーダー。メインディッシュは京都産平井牛のフィレ肉と、フランス・ブルターニュ産の鴨胸肉の2種類の肉を、食材の滋味が存分に味わえるローストで堪能しました。食材を選んでから調理方法を決める“おあつらえ”料理。その根底には京都らしい、おもてなしの心が息づいています。
自分好みの草履(ぞうり)を作りたいと、常盤さんは京都市左京区・岩倉にある閑静な住宅街を訪ねました。お目当てはこちらの「履物 関づか」。2020年にオープンした履物の工房兼ショップです。店主の関塚真司(せきづか・しんじ)さんは靴メーカーに勤務した後、祇園の履物店で修業、独立して自らの工房を立ち上げました。“履物”を着物の付属品としてではなく、より大きな枠でとらえ、さまざまな提案をしています。草履もセミオーダーであつらえることができ、いくつかの種類から型を選び、鼻緒は店に用意されているものや、思い出の裂(きれ)などで仕立てることもあるのだとか。お客の要望を聞き、1点1点手作りで仕上げるのが関塚流。アイデアを出し合いながら、共に理想の一足を作り上げます。草履のおあつらえは出来上がりまで4カ月ほど。伝統的な日本の履物の美しさを再認識した常盤さんでした。
京都でおあつらえの文化が発展した背景には、神社仏閣や茶の湯の存在が大きく関わってきます。そこで好まれたのが、絵画や書といった紙や布を糊で貼って掛け軸や屏風(びょうぶ)、襖(ふすま)などにする「表具(ひょうぐ)」です。京都市中京区油屋町(あぶらやちょう)に、ユニークな表具を手掛ける「立入好和堂(たちいりこうわどう)」があります。3代目の村山秀紀(むらやま・ひでき)さんは、伝統的な表具を仕立てる一方で、床の間のない部屋にも飾ることができる表具を製作し、新たな楽しみ方を提案しています。江戸中・後期に作られたぜいたくな小袖をシンプルな軸にしたり、ヨーロッパのアンティーク生地を表具に仕立てたり……。常盤さんの祖母の形見である半襟も、素敵な表具に変身。常盤さんも知らない生前の祖母の面影を、しのぶことができました。
【次回放送情報】
■京都画報 第32回「京都・おあつらえ入門 -私だけの宝物-」
BS11にて5月8日(水)よる8時00分~8時55分放送
出演:常盤貴子
※ 放送後、BS11+にて5月12日(日)正午~ 2週間限定で見逃し配信いたします。