涼やかに心地よい風とともに秋草を楽しむことのできる季節になりました。この時期、お茶会や展覧会に伺う機会も多くなります。
ある快晴の日にお呼ばれしましたお茶会。会場の旧三井家下鴨別邸にて、それは素晴らしい桔梗の庭に出会いましたので、お写真とともにご紹介させていただきます。
旧三井家下鴨別邸は、下鴨神社糺(ただす)の森のほとりにあります。現在は一般公開もされており、入館料を払えば、見学することもできます。
この日は、同じお茶会に参加する友人と少し早めの待ち合わせをして、一緒に下鴨神社を参拝し、糺の森を散策してから、お茶室がある旧三井家下鴨別邸へと向かいました。
到着して建物の前面に広がるのが、見事な苔地の庭で、桔梗の花が音符のように、星座のように、並んでいます。ひょうたん型の池は泉川(下鴨神社の境内を通る小川の名)から水を取り入れており、つまり、この庭の草木は、糺の森にも繋がる水に育まれているのです。糺の森のきらめきを映しているようで、一層神聖で美しいもののように感じられました。
庭の景石は鞍馬石とのこと。京都で採掘される鞍馬石は、「わびさびの石」として、茶道の世界で愛好されています。お庭だけでなく、建物ももちろん素晴らしく、揺らぎの美しいガラス窓、日本画家 原在正(1778頃〜1810)の牡丹と孔雀を描いた杉戸絵など、旧三井家下鴨別邸の見所について挙げはじめると、ここでは語りきれません。
桔梗の花の間を縫うように、いくつもの黄蝶が舞うのを眺めながら、お茶室へ呼ばれるのを待ちました。お作法など慣れない私は、いつも決まって、この待ち合いの時間に少し緊張をしてしまうのですが、この日は桔梗の庭の夢のような景色と、畳のお部屋を包む暖かな日だまりに心が和んで、すっかりリラックスした状態でお茶室に上がることができました。
万葉集にも歌われ、日本で古くから愛される桔梗。その花言葉「清楚」「誠実」「気品」は、清らかで凛とした桔梗の立ち姿を、とてもうまく表していると感じます。
紫の桔梗と澄んだ泉川の水のある景観に心がすっかり洗われた後、白い靴下に履き替えて畳に上がり、身体の中に一服のお茶の清涼を取り込む。そして円窓から飛び込んでくる苔庭の色に似た美しい緑。
つくばいに添えられた桔梗の花もなんて可愛いのでしょうか。
この日のお茶会の気分にぴったりの桔梗のお庭。これから先は紅葉、冬には椿、春にはツツジや山吹、夏には蓮。四季折々に、この花の庭に伺いたいと思いました。