京都に桜の季節が訪れました。散歩が心地よい季節、コーヒーブレークに最適な一軒から、京都歩きを再開します。今回訪ねた「Goodman Roaster Kyoto」は、ちょっとユニークな飲み方でスペシャルティーコーヒーをいただけるカフェ。すっきりとしてフレッシュな浅煎りのコーヒーは、春の陽気にぴったりの一杯です。
■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。朝日新聞デジタルマガジン&Travelの連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。 (文:大橋知沙/写真:津久井珠美)
お茶と見まごうほど澄んだ、琥珀(こはく)色の液体。中国茶器でサーブされるこの清らかなドリンクが、「Goodman Roaster」自慢の阿里山コーヒーです。お茶の産地として知られる台湾・阿里山は、他方で「幻のコーヒー」と呼ばれる希少なコーヒー豆が栽培される地域。昼夜の強い寒暖差と標高1000m以上の高地は、果実のようにフルーティーでふくよかな甘みを秘めたコーヒー豆を育みます。
そんな阿里山コーヒーの特色にいち早く注目し、現地の農園と3年かけて品質改良に取り組んだのが「Goodman Roaster」のオーナー・伊藤篤臣さん。日本に先駆けオープンした台北の2店舗で、台湾の人々に自国のコーヒーのおいしさを伝え、2019年秋、京都に日本初となる3号店をオープンしました。
「ライトロースト(浅煎り)の阿里山コーヒーは、上質な肉と同じ。生豆の品質が良いから、火を通す(焙煎)のは最小限でいいんです。『浅煎りの酸味が苦手』という人もいますが、おいしい酸味のコーヒーを飲んだら印象が一変すると思います。すっきりして甘みが豊かでしょう? お茶みたいにするする飲めるんです」
コーヒーを茶器で提供するのは、「お茶のように飲める」阿里山コーヒーのすがすがしい風味と軽やかな後味を感じてほしいから。伊藤さんが「Goodman Roaster」を立ち上げる前、訪れた台湾で出会った光景もヒントになっていると話します。
「友人同士、8人くらいで円卓を囲んで、茶器でコーヒーを飲んでいる様子を目にしたんです。台湾の人は本当にお茶をよく飲むのですが、コーヒーもこんなふうに、みんなの輪の中にあるといいなぁと思って」
コーヒーとお茶。対照的でありつつ共通点も多い、二つの台湾の味を堪能できるようにと、セットには中国茶も付いています。指先でつまめるほどの小さな茶壺に入っているのは、コーヒーと同じく阿里山で栽培された高山茶葉。コーヒーを飲む前にまず茶葉の香りを嗅ぎ、嗅覚(きゅうかく)をリセットしてからコーヒーを味わってほしいという計らいです。
コーヒーを1杯ずつ自分で茶杯に注ぎ、阿里山の豆の風味を堪能したら、最後は茶葉に湯を注いで台湾茶で締めくくり。甘く爽やかなコーヒーの余韻に、華やかな台湾茶の香りが重なり、調和します。
「コーヒーの世界ではまだ珍しい台湾のコーヒーですが、通常の飲み方とは違う体験を通じて、台湾の文化を感じてもらえたら」
そう語る伊藤さん。一連の体験は、私たちのよく知るコーヒーとは違う、異国の初めての飲み物を楽しむかのような時間をもたらします。
「Goodman Roaster Kyoto」にほど近い、現在は使われていない下京中学校成徳学舎は、早咲きの桜「春めき」の名所。アーチ型の窓と桜のノスタルジックな風景を眺めた後に、コーヒーとお茶が導く台湾への「旅」を体験するもよし、テイクアウトして歩きながら桜をめでるもよし。春の寄り道に、初めてのコーヒーとの出会いもぜひ、楽しんでみてください。