ここからしか見えない京都
  

三十三回目「紫式部を訪ねて③」

今年の大河ドラマ『光る君へ』の主役である紫式部ゆかりの地を案内させていただく連載も今回がラスト。
ドラマの方は、紫式部が物語を書き始めようとしておりまして、いよいよという展開に胸を熱くさせている私です。

あらためて、これまで紹介させていただいたところをまとめさせていただきますね。

1. 京都御所(御苑)
2. 廬山寺(ろざんじ)
3. 雲林院
4. 片山御子神社(かたやまみこじんじゃ)
5. 紫式部のお墓

6. 嵐山・亀山公園
7. 野宮神社
8. 仁和寺

さて、今回ご紹介させていただくのは、源氏物語の後半は『宇治十帖』の舞台である『宇治』。
『宇治十帖』は、光源氏の妻である女三宮と柏木との不義の子・薫と、光源氏の孫の匂宮が、一人の女性を巡って葛藤する苦しい恋と成長の物語です。つまりは、次世代編です。

9. 平等院

宇治といえばこちら。
十円玉硬貨に描かれてお屋敷ですので、私たちにとって馴染み深い建物です。
不穏の世に怯える民に、極楽浄土をイメージしてもらうために建てられたとか。
ちなみに、元々は『宇治殿』という道長の別荘だったのですが、人々のためにその別荘を改修し、平等院を建てたのが、藤原頼通です。
頼通は、道長と正妻・倫子との長男で、ドラマの中では自分の舞を帝に褒めてもらえず、号泣していた田鶴(たず)くんです。(7/28放送)
これまでは、藤原頼通と聞いてもピンとこなかったのですが、大河ドラマのおかげでなんだか身近に感じるというのも嬉しいですね。
現代も何かと世知辛いもの。
ぜひ、平等院を訪れて、極楽浄土を感じるのも良いのではないでしょうか。

10. 宇治市源氏物語ミュージアム

画像素材:PIXTA

源氏物語ファンならば、ここを訪れていただきたい。
平安貴族の華やかさに触れられる『平安の間』、香の体験もできます。

11. 橋姫神社

画像素材:PIXTA

源氏物語五十四帖のタイトルが『橋姫』。
橋姫といえば、嫉妬に狂い鬼女となり、丑の刻詣りの原型となった……と言われておりますが、源氏物語では、薫が愛しい女性に贈った歌からきています。
『橋姫の 心をくみて 高瀬さす 棹のしづくに 袖ぞぬれぬる』
(橋姫の寂しい心を察して、浅瀬をこぐ棹のしずくに袖を濡らすように、私の袖も涙で濡らしております)
ここは、悪縁を断ち切ってくれる神社として知られています。

12. 宇治橋 夢浮き橋ひろば / 13. 朝霧橋

画像素材:PIXTA
画像素材:PIXTA

夢浮き橋ひろばには、紫式部の像があり、朝霧橋には宇治十帖のヒロイン浮舟と匂宮の像があります。
あれ、どうして薫じゃなくて、匂宮?
と、疑問に思いましたが、浮舟と匂宮が小舟で宇治川を漕ぎ出すシーンからきているそうです。

宇治のご紹介はここまでなのですが、源氏物語ゆかりの地で欠かせないのは、やはりこちらでしょう。

14. 石山寺

滋賀県大津市、琵琶湖の南側にあるお寺です。
平安時代、石山詣は人気があり、『蜻蛉日記』や『更科日記』にも登場しています。
紫式部は、この石山寺を訪れている際に、源氏物語を書き始めた──という話もあるとか。
大河でも石山寺は、ドラマチックな展開が起こっております。

15. 大原野神社

画像素材:PIXTA

源氏物語二十九帖『行幸』の巻では、冷泉帝が大原野へと向かう華やかで美しい行列の様子が描かれています。
そして、こちらは、藤原家ゆかりの神社でもあります。
藤原家の氏神は奈良の春日大社であり、桓武天皇が平城京から長岡京に遷都した際、藤原乙牟漏(桓武天皇の后)が藤原家氏神の春日大社の分霊を大原野に祀ったのが、大原野神社の起源だそうです。
道長は、娘が帝に嫁ぐたびに、大原野神社を参拝していたとか。
(この話を聞いた時は、あらためて参拝に行かなければと思ったものです)
そして、紫式部もこの大原野神社を氏神と崇め、こよなく愛していたそうです。そう聞くと、やはり、道長と紫式部にはドラマのような展開まではいかなくても、強い縁で結ばれていたのが感じられます。
春日大社は、狛犬ならぬ、可愛い狛鹿が参拝客を迎えてくれる神社。秋は特に紅葉が美しく、おすすめです。

さてさて、今回を持ちまして、『紫式部を訪ねて』の連載を終わらせていただくのですが、ドラマはまだまだ続いており、これからの展開も心から楽しみにしている次第です。
聖地巡礼の参考にしていただけたら、そんな嬉しいことはありません。
とはいえ、今年は(も)猛暑。熱中症に気をつけながら、聖地巡りを楽しんでくださいね。

新刊のお知らせ
『京都下鴨 神様のいそうろう』
角川文庫 8月23日頃発売

(装画:しらまめ先生)

京都の下鴨神社近くにある親戚宅で暮らす春宮萌子は、平凡な高校1年生。
幼い頃は、不思議なものが視えたり、人の心の声が何でも聞こえてしまうことに苦しめられていたが、強い力を持つ美貌の幼馴染・賀茂理龍(りりょう。拝み屋さんの澪人と小春の息子)と出逢い、彼に救われた。
今は理解ある場所や友人にも恵まれ、大学生となった理龍を「生き神様」と崇め、彼を“推し活”する平和な日々を送っている。
そんな萌子の許には、ときどき「神様のいそうろう」という不思議な存在がやってくる。
彼らは、動物たちの体を借りて現世を視察しにきた神様や神使たちのことで、理龍と萌子は、彼らの困り事の解決や願いを叶える手助けをしている。
新たに萌子の許にやってきたのは、つがいのモルモットに入った神様。
けれど、2匹(2柱)は、自分たちが本当は何者で、何のために現世にやってきたのか記憶を失ってしまっていた。
さらに、「都七福神」を祀る7つの神社から、それぞれ七福神たちが消えてしまうという事件が起きて……!?

よろしくお願いいたします。

この記事を書いた人
望月麻衣
 
京都在住の道産子。もの書き。 『京都寺町三条のホームズ』(双葉社)『わが家は祇園(まち)の拝み屋さん』(KADOKAWA)『京洛の森のアリス』(文藝春秋)『太秦荘ダイアリー』(双葉社)など書籍発売中。  
 

タグ一覧

#人気ワード