ここからしか見えない京都
  

三十九回目「菊乃井レポート」

このエッセイは『望月麻衣の今、気になるところ』と銘打ち、私が京都で気になっているところや、気になっていたところを書かせていただいてきました。
今回はついに、行ってみたいと長い間、『気になっていたところ』へ行ってきましたので、レポートさせていただきたいと思います。

前回で予告もしていましたが、今年の私の3月14日の誕生日、『菊乃井』(敬称略)へ行ってきました。
『菊乃井』とは大正元年(1912年)創業した、京都東山、円山公園の近くにある京料理・懐石料理の料亭です。
2025年「ミシュランガイド京都・大阪2025」にて『菊乃井本店』が3つ星の評価を得ております。
そんな『菊乃井』に憧れつつ、(お値段も3つ星なので)なかなか行けなかったのですが、今年で私も50歳。10年前にデビューして以来、ほぼ休みなく働いてきたわけですし、ここらで自分を労ってあげても良いのでは?
ずっと支えてくれた夫にも感謝を込めて、誕生日に夫婦で行こう!と決めました。
夜のコースにしたのですが、お値段は色々です。
『松竹梅』に譬えると、『松』は夫婦で北海道旅行できる価格で、『竹』も『梅』も温泉旅行に行ける値段です。
50歳の節目の年、ここは『松』で!……と思ったのですが、日和ってしまいワンランク下げて『竹』にしました。
『梅』でもいいかな……、と頭を掠めたのですが、それは後々後悔するかもしれないと思いまして。

いやはや、しみったれた話をすみません。
ではでは、『菊乃井』レポートをはじめさせていただきます。
(※掲載のご許可をいただいております)

そんなわけで、2025年3月14日。
清水の舞台から飛び降りる気持ちで、『菊乃井』へ行ってきました。
夜のコースは17時からで、空はまだ明るいです。

この日はたまたま洋間しか空いておらず、予約の際、スタッフさんが少し申し訳なさそうにしていたのですが、(料亭といえば和室を期待される方が多いようで)私としては、モダンで素敵なお部屋だったので、大満足でした。

こちらが、弥生の献立です。

[八寸]

[木の芽和え、蛸(たこ)柔らか煮、蕨(わらび)、花びら独活(うど)、人参葉と金時人参の辛子胡麻和え、白魚雛寿司、蕗(ふき)の味噌かけ、花弁百合根いくら]

先付けの前に、季節の野菜や魚介類を使った小鉢が届きました。
ビール(私)とお茶(下戸の夫)で乾杯して、いただきます。
「蛸は本当に柔らかいね」
「上品な味やな」
などと言いながら完食。

[先付]

[隠れ梅、白子、桃の花]

とろりとした白子のたれの中に梅が隠れているのですが、これが初めて食べる味わいでした。
白子のたれはほんのり甘く濃厚で、中の梅が甘酸っぱく、上品ななかにも個性とパンチ力のある一皿です。

[向付]

一、[明石鯛、車海老、あしらい一式]

刺身はですね、私は北海道出身なのでそれほど期待はしてなかったのですが、鯛もエビも身がしっかりしていて予想していたよりも美味しかったです。
ここで私はビールから日本酒へ。

二、[鮪(まぐろ)辛子 黄身醤油]

このマグロには驚かされました。
まるで上質な牛肉のように濃厚なんです。
マグロに載ったカラシが良いアクセントで、何より卵の黄身と醤油を混ぜたタレがピッタリでした。
「トロと黄身醤油、いいね」
「うち帰ってから真似しよう」
などと話しながら完食。

[煮物椀]

[虎魚(おこぜ)露仕立て・小蕪・こごみ・結びうるい、木の芽]

ここで一息、温かいお椀です。
おこぜの出汁が効いていて、さっぱりしているのでしっかりとした味わいでした。

[焼物]

[ぐじ唐墨粉焼き、金柑辛子麹漬け]

ぐじとは、アマダイの一種です。
カラスミにつけて香ばしく焼き上げた一品。
カラスミの塩味と柔らかく弾力のあるぐじが絶妙で、日本酒を飲んでいたのに、ビールが欲しくなる一皿でした。

[中猪口]

[菜種、ナッツクリーム、キャビア]

こちらも驚かされた一品。
菜種の上に濃厚なナッツクリーム、そしてキャビアが載っているのですが、この三つが組み合わされることで絶品の味わいとなるのです。
今まで食べたことがなかった味わいでした。
シャンパンに絶対合う一皿です。

[口取り]

[蛍烏賊(ホタルイカ)香酒漬け・花穂紫蘇、生このこ・叩き長芋、甘海老糀和え、山葵菜おひたし、ヒイカ黄身寿司、てっぱい・烏賊・分葱・赤蒟蒻・陳皮]

こちらも八寸同様、季節の野菜と魚介類の小鉢です。どれも美味しくお酒が進みました。
ちなみにこの時点で結構お腹がいっぱいになってきています。

[強肴]

[海苔鍋・伊勢海老・帆立・鮑(あわび)・畑菜・小蕪]

こちらが本日のコースのメイン。
海苔の鍋に伊勢海老、ホタテ、アワビ、野菜が入っています。
この世の贅を尽くしたような小鍋!
味はもちろん絶品で、鍋のスープまですべて飲み干したい美味しさでした。
しかしボリュームもたっぷりで、
「お腹ぱんぱんだね」
「ほんまや。あとは小っちゃい茶碗に御飯と汁物やろ」
なんて話していたのですが……、

[御飯][止椀]

[穴子寿司・木の芽・粉山椒・生姜][きのこすり流し・椎茸・黒胡椒]

ここにきて、ドドンと穴子寿司!
写真で観るより結構な大きさです。
ものすごく美味しそうなのですが、お腹が苦しくて仕方ない。なんと口惜しい。
なんとか一口だけ食べて、後は夫に食べてもらいました。
きのこ汁は、椎茸をすりおろしたもので香りが豊か。とても濃厚でした。

[水物]

[パッションフルーツソルベ・マンゴースープ]

少し間をおいてマンゴースープのシャーベットが届きました。
さっぱりしつつマンゴーの甘さが際立って美味しかったです。
さてさて、これでコースも終わり。
本当にお腹がいっぱい……と思っていたら、最後にもう一品届きました。

[抹茶と桜餅]

桜餅が小さく一口でいただけたのですが、最後の最後まで驚かされました。
『菊乃井』の料理はこれまでにない味わいを教えてくれて、サービスも行き届いており、すべてにおいて私たちの期待を上回りました。
さすが、3つ星の料亭です。

そうして、苦しいほどのお腹を抱えながら大満足で帰ってきた私たち。
とても良い誕生日を過ごすことができました。
『菊乃井』さん、ありがとうございました。

【新刊情報】
4月30日
『大正浪漫乙女恋譚抄』

苦しい境遇でも、けなげに誠実に生きる、大正時代を舞台にした4人の乙女の恋物語アンソロジー
著者:天花寺さやか先生、卯月みか先生、みちふむ先生、望月麻衣
装画:マツオヒロミ先生


5月14日
『京都寺町三条のホームズ22』

輝かしい未来に想いを馳せていた葵だが、突如世界を襲った新型ウイルスにより、海外留学を断念せざるを得なくなる。そんななか、清貴が出した提案とは?
難航する就活、合わない職場での苦悩を経て、葵は自分を取り戻し、さらに『美術補佐人(アート・アドバイザー)』としての才能が開花していく。清貴と葵の関係が新しいステージに進んだ、新章スタート!
装画:ヤマウチシズ先生

この記事を書いた人
望月麻衣
 
京都在住の道産子。もの書き。 『京都寺町三条のホームズ』(双葉社)『わが家は祇園(まち)の拝み屋さん』(KADOKAWA)『京洛の森のアリス』(文藝春秋)『太秦荘ダイアリー』(双葉社)など書籍発売中。  
 

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