早いもので、今年も6月になりましたが、その朔日を「氷の節句(こほりの節句)」というのはご存知でしょうか。
京都ではこの時期に「水無月」という氷を模した形のお菓子を食べ、無病息災を願う習わしがあります。古く宮中では6月1日に「氷室の節会」が行われ、冬に蓄えられた氷が宮中に奉納されたと聞きます。庶民にとっては贅沢品であった夏の氷を、京都の人々は6月のお菓子に見立てたのです。
今年、下鴨神社で長く途絶えていた「氷室」が再興し「氷室開き神事」が御斎行されると伺い、私も参列させていただきました。ザクロの花が見事に見ごろを迎え、多種多様な緑にあふれる鎮守の森の中で佇む氷室はとても美しく、厳かなご神事に心身が清められるようでした。
御神事の後は糺の森を歩きました。そこに流れる「泉川」のある小径がとても美しいのです。
私の大好きな作品に、円山応挙(1733-1795)の氷図屏風があります。
京都の絵師・円山応挙は、様々なジャンルの作品を客観的な態度で学び、絵に描く対象をも徹底的に「観察」「写生」をした画家でした。
それにしても、氷とは不思議なモチーフです。
氷は、そもそも水がかたちを変えたものです。水は自由にかたちを変えて、雨となり雪や氷となり、また水となって巡ります。
水の豊かな土地に住む日本人は、花や蝶といった生物と同様に、海や山川、水の様々なかたちをも、情感やいのちをまとったものとして大切に見つめ、様々な造形や作品に現わしてきました。
この図屏風のかたちは「風炉先」と呼ばれ、お茶室用の屏風として仕立てられています。氷図は冬の風景画ですが、おそらく氷の節句や夏の暑い日のお茶会で利用されたのではないでしょうか。これを前に亭主が揃えたお道具やお菓子はどんなものであっただろうかと想像するだけで心ときめきます。
一年の折り返しとなります6月30日の「夏越の大祓」を前に、多くの神社では茅の輪が設置されます。茅の輪をくぐり、水無月を頂く。氷が貴重品ではなくなった現代であっても、欠かすことができない行事のひとつです。