ここからしか見えない京都
  

第12回「立春の朝に若水を汲む / 京都御苑 白雲神社」

立春。寒明けともいいますが、暦の上では節分翌日の立春から立夏の前日までが春となります。
このおめでたい立春の朝に「若水(わかみず)」を汲む「若水汲み」の習慣をご存知でしょうか。
若水とは、元旦の早朝、最初に汲んだ水のことですが、元々は立春の早朝に汲んだ水を指し天皇に井戸水を献上する平安時代からの宮中行事が起源とされています。それが後に庶民の間にも広まったそうです。
若水は邪気を祓うものとされ、神棚に供え、その日の食事に用いたりお茶を沸かしたりします。

地域などで違いはあるようですが、若水汲みには立春早朝に汲むこと以外にも面白いルールがあるそうです。

できるだけ遠方まで汲みに行くこと。
道中、もしも人に会っても口をきかないこと。
若水を汲む際には、「黄金(こがね)の水を汲みます」といった地域や各家に伝わる言葉を唱えること、など…

さて、今年の立春の若水汲みは、こちらでお分けいただくことと決めていました。
京都御苑内にあります白雲(しらくも)神社という、とてもきれいな名前の小さなお社です。

京都御苑の中でも比較的賑やかな場所の近くにありますが、この神社自体が小さな森に包まれるように鎮座しているからなのでしょうか、お社のある小さな小道に足を踏み入れると、途端にとても静かで静謐な空気に変わります。

京都御苑には三社の神社が御座(おわ)しますが、白雲神社は芸事上達の神様・妙音弁財天と称する(いち)杵島(きしま)(ひめの)(みこと)を祀っているとのことで、これまでも京都御苑に立ち寄った際にはお参りをしておりました。鳥居をくぐり手水舎の水で手を清めるたび、心まで洗われるような心地よさを感じることができます。

また、弁財天は水の神様ともいわれます。

若水汲みで頂きましたお水のおいしいことといったら。
(若水汲みというには、この日、朝寝坊をしてしまいましたが。)

特に、このお水で炊いたお米の、澄み切ったお水の味が清らかで優しく柔らかく、何よりの宝物にも感じられ、心も体も心地よく新春を迎えることができました。

ところで、京都御苑の中、白雲神社の境内にも香りが届くほどの場所に美しい梅苑がありあります。
「春告草」とも呼ばれる梅の花。このときはまだ、ほとんどがつぼみでしたが、今にも開きそうなつぼみをたくさんつけた梅の枝からは甘い花の香りがしっかりと漂っていて、たおやかな春の気配を感じることができました。
野に山に様々な花が咲き競う春もあと少しです。

この記事を書いた人
定家亜由子
 
京都在住の日本画家。伝統画材にて花を描く。
高野山惠光院襖絵奉納記念展等、個展多数。
画文集『美しいものを、美しく 定家亜由子の日本画の世界』(淡交社) 刊行。
2023年5月19日~30日 宮脇賣扇庵200周年記念企画 (京都)にて個展開催予定。  
 

タグ一覧

#人気ワード