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定家亜由子さんインタビュー【前編・創作活動】

京都で日本画家として活躍され、「京都の特等席」では毎月エッセイを連載している定家亜由子さん。創作活動を行う中で大切にされていることや、絵を描く喜び、モチーフにしている動植物の美しさについて語っていただきました。

Q.改めて、どのような創作活動をされているのか、どのような絵を描かれているのか、教えていただけますでしょうか。

改めまして、定家亜由子です。日本画家です。京都で日本画を生業としています。

私は、千数百年前から伝わる画材と技法に魅せられ、花や虫といった身近な動植物を描いています。
私の場合、写真などは一切使わず、「写生」をもとに描いています。目の前のモチーフに向き合い、対話しながら絵にしていく時間、その中で生まれるものを大切にしています。

Q.日本画とは、どのようなものでしょうか。

日本画の定義は人によるかもしれませんが、私は、和紙や岩絵具など伝統画材を使用した絵画だと考えています。
具体的には、和紙は楮(こうぞ)や麻など、絵の具は貝殻や鉱石を原料とするものなど、そのままでも魅力的な天然素材の画材を使用します。私自身、それらを用いて絵画を描くこと自体が面白く、学びが尽きません。

貝殻を原料とする胡粉と膠水(にわかすい)を調合しながら、白い絵具を作る

Q.どのようなペースで創作活動を行われているのでしょうか。

ほとんど毎日描いています。予定があり筆を持つことができない日も、ずっと絵のことを考えている状態です。

Q.絵を描くうえで意識されていることはありますか。

心を研ぎ澄ませておくこと。心配事や焦りが胸の中にあるままだと、絵具が濁るなど、わずかにでも不自然な違和感が画面に現れてしまう気がします。そうなると、私としては、自分自身に大変がっかりしてしまいますし、そういう作品は残念ながら、決して人にお渡しすることはできません。

Q.動植物をモチーフにされる定家さんですが、特に好きな草花や動物は何ですか?

草花はどんなものでも好きです。自然豊かな土地に育ったこともあり、大きな動物はもちろん、昆虫や爬虫類、カエルといった小さな生きものも昔から大好きです。
自然の造形、デザインには本当に感嘆させられます。花びらの一つ一つを見つめても、トンボの翅(はね)をよくよく見つめても、なんて美しい色や形だろうと。
季節ごとに出会う、虫食いのあるような草木や花の佇まいとか、日常で出会う旬のお野菜のみずみずしさ、川魚の造形、そういったものに美しさを感じたとき、すぐに描きたい、描かずにはいられないという気持ちになります。

私が通った小学校は裏庭や通学路が山や森と繋がっていて、その山に駆け上って遊んだり、木の実や草花を拾って帰っては絵に描いたりするような環境で育ったので、大人になってからも、花を描くときは対象に随分近づいて描くことに喜びを感じるんです。この視点や世界観に非常に学びがあると思うんですよね。

花と輪舞

Q.記念すべき連載の第1回目で「自分の眼と体験だけで花や自然を見ていた私が、京都画壇や京文化の先人たちの美意識を通した「花」に出会い、日本画に夢中」になったとありましたが、美意識を通した「花」とはどのようなものだったのでしょうか。

対象と自分自身との間につくられる、一歩ひいた間(ま)のようなものでしょうか。
お茶室に生けられたお花のような緊張感。
見えない結界が張られ、触れようにも触れることができない。
そういう美しいものに対してのリスペクトを、先人たちは表現しているのかなとも思います。うまく言えないのですが、こういったリスペクトにより、非常に冷静で、粋な形で花や美を表しているように思います。

Q.エッセイの執筆を引き受けてくださった理由を教えてください。

京都で絵を描いていると、楽しいことや面白いことにたくさん出会います。その出会いを文章でお伝えできることを大変嬉しく、光栄に思ったからです。

Q.絵を描くときと、文章を書くとき、考え方や制作過程において、大きく異なることはありますか。

私が絵を描くときは、モチーフである自然・花を見つめると同時に、自分自身を見つめ、深めるという“個人的”な表現・制作過程になりますが、文章を書くときは、隣に地図や図鑑を広げながら、風景画を描くような気持ちで執筆しています。興味も知識も自分の粋を超えて外側にどんどん広がるので、学びの機会を頂いています。

Q.逆に、絵と文章を制作をされる上で、共通して意識していることはありますか。

自分の表現でその作品を濁すことがないよう、少しでも自分が出会った花や土地の美しい魅力を、純粋に清らかなままに伝えようと意識しています。
“絵は人なり”、がモットーで、文章も同じかと。
まだまだ未熟ですし、文章に至っては素人ですが、自分自身も同じように、少しでも清らかに美しくあるように成長したいと考えています。

インタビューの後編では、定家さんから見た京都について、お伺いします。

~定家亜由子さんプロフィール~
京都在住の日本画家。伝統画材にて花を描く。
高野山大本山寶壽院 襖絵奉納。
白沙村荘 橋本関雪記念館 定家亜由子展等、個展多数。
画文集『美しいものを、美しく 定家亜由子の日本画の世界』(淡交社) 刊行。
https://www.sadaieayuko.com/

「京都の特等席」では、エッセイ「花をえがく 日本画家 定家亜由子の京の花便り」を連載中。

この記事を書いた人
京都の特等席 編集部

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