豊臣秀吉が愛し、自らも演じたという能楽。京都には境内に能舞台がある神社や寺が数多くあり、伏見区の御香宮(ごこうのみや)神社もその一つ。平安時代、境内から香りの良い水が湧き出たことから、清和天皇から「御香宮」の名を賜ったと伝わり、ゆかりのある徳川家が産湯として使ったといわれる。新型コロナで休演になるまで毎年9月に行われていたのが、約600年前の猿楽奉納を起源とする歴史ある神事「御香宮神能」だ。ろうそくを灯して能楽を上演することから「ろうそく能」とも呼ばれ、京都の秋の風物詩にもなっている。2023年は4年ぶりの開催が決定した。
下京区にある因幡堂(いなばどう)は、「因幡堂」「鬼瓦」など狂言の曲目の舞台となった寺だ。
縁起によれば、因幡(現在の鳥取県)に赴いた平安時代中期の貴族・橘行平(たちばなのゆきひら)が病に倒れ、夢のお告げで海中から薬師如来を引き上げ、祀ったのがこの寺の始まりなのだとか。病気治癒や子授けのご利益のほか、がん封じの寺として知られる。狂言の奉納は平成に復活したが、残念ながら2011年を最後に現在は休止中だ。狂言ゆかりの寺だけに、今後の復活が期待されている。
晩年、能楽に熱中した秀吉は、1593年(文禄2年)、天皇の住まいで「禁中能」を開き能や狂言を演じた。秀吉のほか、徳川家康や前田利家など、多くの武将が天皇の前で能楽を演じたという。その秀吉の遺体が埋葬された阿弥陀ヶ峰の中腹に、1599年(慶長4年)創建されたのが豊国神社だ。
徳川の時代になると秀吉に対する祭祀が禁止となり、荒廃したが、明治になって現在地に再建された。神社の顔ともいえる国宝・唐門は、再建の際に南禅寺の塔頭・金地院(こんちいん)から移築されたもので伏見城の遺構と伝わる。境内には正室・北政所を祀る貞照(さだてる)神社が鎮座し、出世開運、良縁成就の神様として崇敬されている。宝物館には「豊国祭礼図屏風」(重要文化財)を収蔵するほか、7月22日からは銘刀「骨喰藤四郎(ほねばみとうしろう)」を特別公開する予定だ。ちなみに「骨喰藤四郎」は、もとは源頼朝の薙刀といわれ、有力な武将や時の権力者が宝刀として所有した伝わり、秀吉もその中の一人だという。
晩夏の京都で、日本の伝統芸能をたどる社寺巡りをしてみてはいかがだろう。
制作著作:KBS京都 / BS11
【放送時間】
京都浪漫 悠久の物語
「狂言師と巡る能楽ゆかりの地~御香宮神社・因幡堂・豊国神社・彦根城~」
2023年7月10日(月) よる8時~8時53分
BS11(イレブン)にて放送