花の寺を巡るのは、夏の京都の楽しみ方の一つ。暑さを忘れるほどの美しい花々に出合えるに違いない。
左京区の詩仙堂丈山寺(しせんどうじょうざんじ)は、四季を通じて約130種類の花が咲き誇る名刹。江戸時代の武将であり文人の石川丈山が晩年を過ごした山荘跡に建つ。丈山は、ここで漢詩を詠み、枯山水の「唐様庭園」や季節の花を愛でながら静かな日々を送ったという。毎年、夏になるとホタルブクロやキョウガノコ、オニユリ、ギボウシなどが目を楽しませてくれる。また花だけでなく、中国の詩人の肖像が描かれた「三十六詩仙」も見逃せない。絵師・狩野探幽が描いた傑作で、漢詩は丈山自身が書き写したもの。並び方にも意味があるそうなので、その意図を解きながら鑑賞したい。
「蓮の寺」の通称で親しまれるのが、右京区にある法金剛院(ほうこんごういん)だ。夏になると庭園の池やその周辺に約90種類のハスが花をつけ、阿弥陀如来の住む極楽浄土の様相を呈する。ハスが見ごろを迎えると「観蓮会(かんれんかい)」が催され、朝7時30分から庭園が開放される。本尊で国宝の阿弥陀如来像は、平安時代後期の仏師・院覚(いんかく)によるもので、一枚一枚緻密に彫刻されたハスの花の台座は見もの。本尊と同じく仏殿に安置されている十一面観世音菩薩像は、鎌倉時代の坐像で4つの手がある珍しい仏様。細かな意匠が施された装身具は見応えがある。
宇治にある正寿院(しょうじゅいん)は、毎年6月から9月まで開催される「風鈴まつり」で有名だ。風鈴の中に花を入れた寺オリジナルの「花風鈴」約2000個が、境内を埋め尽くす様子は圧巻。風鈴の花も7月上旬まではアジサイ、7月上旬から8月はヒマワリ、9月はコスモスと変わり、夏らしい色彩と清涼な音に癒される。SNSで注目を集めているのが、客殿「則天の間」にある大きなハートの形をした「猪目窓(いのめまど)」だ。四季に彩られた庭園がハート型に切り出され、アーティスティックな景観が楽しめる。ちなみに「猪目」とは、古来、寺や神社などの建築装飾として用いられている日本の伝統文様で、災いを除き、福を招く意が込められているという。さらに客殿の天井画も注目してほしい。多くの日本画家らによる160枚の絵は、花と日本の風景をテーマに描かれている。畳の上に仰向けになって眺めることができるので、カラフルな色の世界に浸ってみたい。
制作著作:KBS京都 / BS11
【放送時間】
京都浪漫 悠久の物語
「夏の京都〜花のある寺院を訪ねて〜」
2024年7月22日(月) よる8時~8時53分
BS11(イレブン)にて放送