俳優の常盤貴子さんが出演、10月から待望のレギュラー放送がスタートしたKBS京都・TOKYO MX・BS11の3社共同制作番組「京都画報」。美しい映像美と大人の知的好奇心をくすぐるテーマで、早くも話題を集めています。仕掛け人は、KBS京都で祇園祭・前祭の生中継や錦市場の400年の歴史をひもとく番組など、京都の文化を掘り下げるさまざまな特番に携わってきたプロデューサー・石場昭雄さん。日本庭園や花街など多彩な切り口で、今後も目が離せない「京都画報」の見どころを聞きました。
――早春・初夏・爽秋編と3回の事前特番を経て、10月からレギュラー放送が開始しました。「京都画報」はどういった背景から企画が立ち上がったのですか?
石場 僕自身が京都情報を調べる時に、主婦層を中心にした女性向け雑誌を何冊か参考にしていました。雑誌を参考にしていました。ネタの宝庫ですし、よく調べられているなぁと。それらの雑誌の読者層のような、和の文化に関心が高く、上質で洗練されたものを好むご年配の方に向けた京都の番組を、いつか作りたいなぁと企画をあたためていたんです。
――ありそうでなかったテイストですね。
石場 (似た番組がこれまで)あったかどうかまではわからないですけど、実は、あんまりなかったのかもしれません。歴史や文化財について詳しく掘り下げるような番組や、行事の中継、グルメに特化した番組はたくさんありますが。この番組でももちろんグルメは扱っていますが、それ以外にも京都の伝統文化や工芸、花街、祭りや習わしといったものに理解を深める内容にしたいと思ったんです。
――具体的には、京都の文化のどういうところが視聴者に響くはず、と思われましたか?
石場 例えば、工芸品一つとっても、京都のものってスッキリしている……というとあまりにも単純ですけど、いらないものをすべてそぎ落としているんです。シンプルに見えて、そこにはすごいテクニックが使われている。室町以降の茶室のような、精神性を感じさせるものが多いと僕は思っています。その奥深さが、知的好奇心をお持ちの方を引きつけているんじゃないでしょうか。そういうものを見つけ出してお届けできたら、楽しんでもらえるはずと思っています。
――たしかに、シンプルなものほど言葉にするのはとても難しいですが、映像で見ると言葉などなくても、シンプルな美しさが伝わります。
石場 ナレーション不要、といってもいいくらいですよね。京都には千年以上の歴史があって、そのなかで培われてきた文化はすごく奥深い。その京都文化の深いところを(映像で)わかりやすく視聴者にお伝えできればと思います。
――映像がとても情緒豊かで美しいのですが、その点にもこだわりがありますか?
石場 やはりきれいな映像で見ていただきたいという思いがあり、撮影はすべて4Kという、ハイビジョンの4倍の解像度を持ったもので撮影をしています。放送はどうしても通常のHDの2Kになってしまいますが、それでもだいぶ違う。撮影スタッフにもシネマカメラで撮っていただいています。
――4Kで、シネマカメラで。映画のような映像美にはそんな秘密があったんですね。
――京料理、美意識、日本庭園と、さまざまな切り口で番組は展開されていきますが、テーマや取材先はどのように選んでいるのですか?
石場 基本的にはリサーチャーの方と構成を担当する方と「今回どんなテーマでやろうか」と話をして決めています。視聴者層と同年代の(中高年層の)方が多いです。
――なるほど、では本当に等身大というか、視聴者の気持ちがわかる方々が選んでいらっしゃるんですね。ナビゲーターに常盤貴子さんを起用された理由も教えてください。
石場 常盤さんは、京都文化にすごく興味をお持ちで、さきに挙げた女性向け雑誌の読者層にもファンの多い俳優さんということもあり、打診させていただきました。数年前から、BS11とKBS京都が年間3本、2時間の生放送の京都特番を制作していたんです。そのうちの「京都夜桜生中継」に2度出ていただいたというご縁もあって、「京都画報」にご出演いただくことになりました。
――視聴者からの反応はいかがですか?
石場 しっとりした京都の情景に常盤さんの上品な雰囲気がとても似合うと、大変好評をいただいております。
――毎回お着物も、テーマや季節に合わせて選ばれているんですか?
石場 はい。常盤さんはカフェがとてもお好きで、京都のカフェにたくさん行っていらっしゃるんです。常盤さんがご自身のお気に入りのカフェを紹介するというコーナーがあるんですが、カフェには毎回ご自身のお着物でご出演いただくという形になっています。
――常盤さんの私服のお着物姿が拝見できるなんて、それも楽しみですね。つい先日も11月放送分のロケだったとお聞きしましたが、どのような内容でしたか?
石場 日本庭園をテーマに、室町時代から近現代の京都の庭園を訪ねました。まずは、「平安神宮」の神苑(しんえん)。神苑を作庭した7代目・小川治兵衛の子孫である、「御庭植治」株式会社の次期12代目・小川勝章さんを案内役に迎え、庭園を観(み)るポイントを教えていただきました。岡崎エリアには、琵琶湖疏水から水が引き込まれた名庭がたくさんあります。その中でも、一番規模の大きい最初の庭、近代の庭が「平安神宮」の神苑になります。
そのあと、妙心寺塔頭(たっちゅう)「退蔵院」にある、室町時代の絵師・狩野元信が作庭した枯山水の庭を訪ねました。「元信の庭」と呼ばれ、500年残る庭です。そこを小川勝章さんと一緒に訪ね、枯山水の庭の基本や石組みの特徴について解説いただいています。「退蔵院」にはもう一つ、昭和期に造られた現代の庭があります。ここは「音」を意識した庭になっていて、三段の滝や水琴窟(すいきんくつ)があり、ここでも鑑賞のポイントをお教えいただきました。
――庭園は専門家の方にお教えいただくと一気に理解が深まりますよね。
石場 そうなんです。ただ見ているだけではわからない部分が、(小川さんの解説を聞いて鑑賞すると)「なるほど」となって、常盤さんもかなり感心されていました。毎回、その分野の専門家の方に解説いただいて、これまでの京都では気づかなかったところに気づいていただく、というのがこの番組ならではの要素だと思います。
――12月以降はどんなテーマが予定されているんでしょうか?
石場 12月は京都の和菓子と洋菓子。来年1月は、京都の花街を取り上げたいと考えています。花街はコロナ禍で苦境に立たされていますが、オンラインでの配信にも取り組んでいたりして……。新しい時代の花街のありかたやがんばっている方々をご紹介できたらと思います。また、常盤さんが京都でお会いしたい方の一人に、京舞の井上八千代さんを挙げていらっしゃったので、実現できればなと思っています。まだ未定ではありますが。
――ますます目が離せませんね。最後に、これから京都を訪れる方、番組をご覧になってますます京都を深く知りたいと思われたという方にメッセージをお願いします。
石場 コロナの影響で海外や国内からでも、観光客の数が減っているなか、今だからこそ落ち着いて見られるのかなというところもあります。例えば冬の京都。京都の冬はかなり寒さが厳しいんですが、そんな時に訪ねるお寺には、凜(りん)とした静けさがあります。それは京都観光の隠れた醍醐(だいご)味なのかなぁと。厳しい寒さの中でお寺を守っている方がいる。文化を大切に伝えて行こうとしている人がおられる。そういうことを感じていただけたら、おもしろいのかなと思います。今は、SNSで色々な情報が発信されますが、実際にご自身の目で見るのとではやっぱり大きな差があります。
またこの2年間、祭りや行事が中止になってしまいましたが、少しでもコロナ禍が落ち着いて制約が解かれていけば、催しも復活していくと思います。その復活の様子も見ていただきたいし、伝えていきたいと思っています。
京料理に工芸の美意識、祭りや文化を継いでいく人々、庭園や花街の秘めたる物語……。表面的ではない、知れば知るほど引き込まれる京都の奥深さこそ、大人がとりこになる理由なのかもしれません。映画のような映像美がいざなうのは、知的好奇心を満たす、上質で豊かな京都の旅への入り口です。
■ 次回「京都画報」放送予定
KBS京都:11/2(火)夜8時~
BS11:11/10(水)夜8時~
TOKYOMX:11/14(日)午前11時~
※11/14(日)正午からBS11オンデマンドにて2週間限定無料で視聴可能です。