「動植綵絵(どうしょくさいえ)」で知られる江戸期の日本画家・伊藤若冲(じゃくちゅう)は、錦市場の青物問屋「桝屋」の長男として誕生。23歳で家督を継いだ若冲は家業の傍ら、画業に励んでいました。そんな若冲の才能を見い出したのが、相国寺(しょうこくじ)第113世住持の梅荘顕常(ばいそうけんじょう)こと、大典(だいてん)禅師です。画家として駆け出しだった若冲を支援し、相国寺が所蔵する中国の絵画や仏画を見せて、絵の技術を学ばせたのだとか。若冲は、禅師の推薦で鹿苑寺(金閣寺)の大書院の障壁画を手掛けました。当時、まだ無名に近かった若冲にとっては大抜擢です。相国寺境内には、当寺や塔頭寺院に伝わる美術品を保存・展示する承天閣美術館があり、若冲が手掛けた「鹿苑寺大書院旧障壁画 月夜芭蕉図(つきよばしょうず)床貼付」と「葡萄小禽図(ぶどうしょうきんず)床貼付」が常設展示されています。
若冲の作品を多数所蔵しているのが細見美術館。大正から昭和にかけて関西で活躍した実業家・細見家三代が蒐集(しゅうしゅう)した美術品を展示する私設のミュージアムです。コレクションは初期の著色画から最晩年の水墨画に至り、若冲の作品を概観することができます。また、アートディレクターと若冲の作品を融合させた古今ジャパニーズアートなど、新たな試みの展覧会を行い、多くの日本画ファンを魅了しています。
錦市場の西の端、高倉通と錦小路が交わる南東角には、「伊藤若冲生家跡」のモニュメントが立っています。また市場内にはタペストリーをはじめ、そこかしこに若冲のモチーフが配され、まさに若冲は錦市場のシンボルといった様子。というのも江戸時代中期、若冲は商売敵の横槍で奉行所から営業停止の命令を受けた錦市場の苦境を救い、市場の再開場を果たした、まさにヒーロー。錦市場の関係者は若冲に感謝し、いまもなお畏敬の念を持ち続けているのです。
錦市場内に、若冲の別号を冠した日本料理店「斗米庵(とべいあん)」があります。京都の名割烹や料亭旅館などで約30年の経験を積んだ料理長の鮫島誠さんは、錦市場の地の利を活かし、新鮮な旬の食材で京料理を提供しています。鮫島さんの料理のこだわりは錦の豊富な地下水“錦の水”を使用すること。昆布や鰹節など、えりすぐりの素材から取る出汁には定評があります。ヴィーガンの人も気軽に楽しめるように、錦の旬の野菜をふんだんに取り入れた京料理は、会席や八寸コース、プリフィクスコースなどで提供。こちらは目で、舌で味わうアートです。
【次回放送情報】
■京都画報 第22回「時空を超えた若冲ワールド -錦市場が生んだ天才絵師-」
BS11にて7月19日(水)よる8時00分~8時54分放送
※ 放送後、BS11+にて7月19日(水)よる9時~ 2週間限定で見逃し配信いたします。