京都府の伝統工芸士は、900人以上と全国でも最多。歴史に培われた伝統工芸品の中で今回は漆工芸に注目し、常盤貴子さんが3人の名工に出会います。
宇治市に工房を構える村山明さんは、木工芸の分野で2003年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されました。加飾的なイメージが強い漆塗りですが、村山さんの作品は、「拭き漆」という木目を出すための漆の塗り方が特徴。木地に漆を塗っては拭き取るという作業を幾度となく繰り返し、木目を活かした透明感のあるツヤを生み出します。なんと塗った漆はほとんど拭き取ってしまうのだとか。こうした繊細な工程によって木地が傷つくのを防ぎ、長年の使用に耐える強さを与えるのだそう。
この拭き漆は、村山さんが師と仰ぐ木工・漆芸家で、人間国宝の黒田辰秋さんの技法。村山さんが師のもとで学んだものは、イメージ通りの形を生み出すため木と真摯に向き合う仕事の作法でした。作品は一見、美しくシンプルですが、よく見ると、複雑な線の組み合わせでできていることに気づきます。漆の光沢が木工の線の組み合わせを際立たせ、シンプルながら味わい深い造形を生み出しています。
拭き漆の系譜に新たなページを刻む若手作家・安成晶(やすなり・あき)さんは、大好きなアクセサリーを通して、独学で学んだ拭き漆の魅力を伝えています。現在展開しているブランド「hoshikage works」は、“宇宙に瞬く星のように誰かのもとで輝いてほしい”という願いを込め、1つひとつじっくりと手作り。木地はヒノキを使っているので、風に揺れるほどの軽さです。まるで宝石のように見えるアクセサリーは何層も漆を重ね、独特の透明感を生み出しています。鮮やかな色だけではなく、複雑な曲線を組み合わせた形状が、作品に温もりと生命感を与えています。
漆芸作家の川勝五大(かわかつ・ごだい)さんの作品は、飲食店や家庭の食卓で使われる器が中心。材料の桐の木は自ら山に入り、伐り出してきたものを3年かけて乾燥させて、削って器の形へ。塗りの工程は大きく分けて3つあり、まずは木地に薄い布を貼り、強度を高めるとともに独特の風合いを出します。布を貼り終えた器には色の付いていない生漆(きうるし)を6回ほど塗り重ね、最後は色の付いた漆で本塗りです。丸みを帯び、ぽってりとした形の温かみのある器は、まるで土で作られた陶器のよう。
漆と木という共通の素材でも、それぞれの名工によって多彩な作品が生み出される京都の漆工芸。表現の幅広さと魅力に、改めて感動させられた常盤さんでした。
【次回放送情報】
■京都画報 第28回「京都・手しごとの逸品-一生モノの漆工芸-」
BS11にて1月8日(月・祝)よる7時00分~7時55分放送
出演:常盤貴子
※ 放送後、BS11+にて1月14日(日)正午~ 2週間限定で見逃し配信いたします。