ここからしか見えない京都
  
© KBS京都/TOKYO MX/BS11

伝統と新しさと美意識 心満たす、古都のスイーツ巡り

京都は実は、洋菓子の都。カフェやホテルが多く、手土産の需要も高い観光都市ゆえ、伝統的な洋菓子文化と最先端のスイーツの両方が街にあふれています。KBS京都・TOKYO MX・BS11の3社共同制作番組「京都画報」で京都のさまざまな文化にふれてきた俳優の常盤貴子さんが、今回はスイーツ巡りをすると聞いて、カフェや甘いものが大好きな私、京都在住のライター大橋知沙が、おすすめのスイーツを案内することになりました。ご一緒に訪ねたのは、新刊『もっと、京都のいいとこ。』など2冊の著書でご紹介したスイーツの店と、注目の話題店。京都のスイーツの「今」を、収録のこぼれ話とともにお届けします。

お菓子で旅するシルクロード、終着点は……

午前10時。常盤さんと待ち合わせたのは、銀閣寺にほど近い左京区・鹿ヶ谷通(ししがたにどおり)。この場所で長年愛された甘味処「銀閣寺 㐂み家(きみや)」の跡地にオープンした、デザートの店です。名店の名残漂うここ「酒菓喫茶 かしはて」で味わえるのは、朝食代わりになる予約制のデザートのコース「朝菓子の会」。午後からは予約不要でアラカルトのデザートをいただけますが、朝限定のこちらのコースをおすすめしたのは、常盤さんにぜひ食べていただきたいひと皿があったからでした。

「酒菓喫茶 かしはて」にて。常盤貴子さん(右)とスイーツ巡りの案内人を務める筆者(左)© KBS京都/TOKYO MX/BS11

「朝菓子の会」は4皿から成り、季節のフルーツをサラダ仕立てにした1皿目、冬はおしるこ、夏はひんやり・つるりとした甘味の2皿目の後、メインのデザート、通年定番の〆のデザートと続きます。季節の味覚にあふれ、作りたてのみずみずしさや温かさ、食感を次々と楽しめるデザートのコースは、旬の素材で客人をもてなす割烹(かっぽう)料理店さながら。店主の得能めぐみさんは、京都の人気カフェ、ガストロノミーレストランなどで経験を積み、「発見があるようなデザートを」と一つひとつのメニューに趣向を凝らしています。

「朝菓子の会」メインのデザート。内容は季節で変わる。自家製のアイスクリームやエディブルフラワーを添えて© KBS京都/TOKYO MX/BS11

実は「かしはて」のデザートのひそかなテーマは、シルクロード。味わいにも、うつわやカトラリーなどにも和洋を織り交ぜ、店内には得能さんが集めたシルクロード上の国々の調度品が飾られています。東洋と西洋をお菓子で旅するようなひと時の、旅の終着点となるのがコースの4皿目「食べられる枯山水」。

「朝菓子の会」4皿目となる定番の「食べられる枯山水」。添えられたレーキで砂紋をかいて楽しめる© KBS京都/TOKYO MX/BS11

敷きつめた砂糖を白砂に見立て、石組みやコケを表したお菓子を配置した、甘く愛らしい枯山水。箱のフタを開けた瞬間のこの感激を、常盤さんに体験していただきたかったのです。台形のフィナンシェは、銀閣寺の庭園にある向月台(こうげつだい)を表しています。お菓子の旅はこうして、京都に帰ってきたのですね。

栗の里、京丹波町の実りを味わう菓子店

次に向かったのは、窓辺から京都御所の緑をのぞむ菓子店「菓歩菓歩(カポカポ) 御所西店」。栗や黒豆の産地・京丹波町に本店を持つこちらでは、オーガニックや地産地消の素材を使ったスイーツがいただけます。看板商品は、丹波栗をふんだんに使ったモンブラン。新栗が収穫されるのは秋口ですが、冷蔵庫で熟成された冬の時期の栗も、甘みが増して格別なのだそうです。

「菓歩菓歩」のスペシャリテ、2種類のモンブランは数量限定のため予約制。丹波和栗モンブラン(左)、渋皮栗のもんぶらん(右)© KBS京都/TOKYO MX/BS11

ひと口いただいた途端「栗そのもの!」と笑顔になる常盤さん。そうそう、こちらの栗のお菓子は、里山の自然をお裾分けしてもらったような気持ちになれるんです。御所西に姉妹店を開いたのも、「京丹波町の豊かな作物をもっと知ってほしい」というオーナーの石橋香織さんの思いから。

バターサンドは、サクサクのクッキーと軽やかで口溶けの良いバタークリームが絶品© KBS京都/TOKYO MX/BS11

小麦粉やバター、ナッツやドライフルーツまで、できる限りオーガニックで滋味豊かな素材を厳選している「菓歩菓歩」のお菓子。モンブランと並ぶ看板商品、バターサンドも、バタークリームがたっぷり挟まれた見た目からは意外なほど軽やかで、素材の上質さが感じられます。常盤さんも帰りにお土産に選ぶほど、気に入ってくださったみたいです。

祖母から孫へ、受け継がれるタルトタタン

京都の洋菓子といえば、伝統を受け継ぎ、変わらぬ味を守り続ける名店も忘れてはなりません。『もっと、京都のいいとこ。』の前作『京都のいいとこ。』でご紹介した岡崎の「ラ・ヴァチュール」は、祖母から孫娘へ、世代を超えて受け継がれる「タルトタタン」が名物の洋菓子店。初代・松永ユリさんがパリを旅行した際に出会ったフランスの伝統菓子・タルトタタンに魅了され、独学で焼き始めたのだそうです。

1ホールにりんごを約20個も使うという「ラ・ヴァチュール」の「タルトタタン」© KBS京都/TOKYO MX/BS11

現在その味を守るのは、ユリさんの孫娘にあたる、若林麻耶さん。バターと砂糖とりんごだけで作るシンプルなレシピを、若林さんは「習ったというより、おばあちゃんがやっていたことを自然と覚えていきました」と話します。砂糖を焦がしたカラメルをまとわせるのではなく、りんごにしっかり焦げ目をつけて焼き上げているため、素朴でいてひと口ごとにりんごの風味があふれ出す、記憶に残る味。一度食べたら必ずまた食べたくなる魅力があります。

店主の若林麻耶さん(左)。子どものころからりんごの皮むきを手伝っていたそう© KBS京都/TOKYO MX/BS11

店内には、ユリさんが生前いつも座っていた席がそのまま残されています。常盤さんもユリさんの写真を眺めながら、どんな女性だったか、カフェを開いたいきさつなど、若林さんの語るユリさんの半生に聴き入っていました。こうした物語を一緒に味わえるのも、京都の古き良き洋菓子店ならではの魅力です。

日本でここだけ、世界的美食ブランドのアフタヌーンティー

フォションカラーで彩られた「フォションホテル京都」の吹き抜けのエントランス© KBS京都/TOKYO MX/BS11

最後に訪ねたのは、2021年にパリに続き世界で2軒目となるオープンで話題となった「フォションホテル京都」。マカロンや紅茶で知られる美食ブランド「フォション」の世界観を凝縮した「アフタヌーンティーセット」が評判で、常盤さんと一緒に体験してきました。ブラック、ピンク、ゴールドのフォションカラーに彩られたエントランスからティーサロン「サロン ド テ フォション」に足を運ぶと、パリのエスプリに和のエッセンスをちりばめたスペシャルな空間に迎えられます。

「アフタヌーンティーセット」では、スイーツとセイボリーが円形のスタンドに並んで運ばれてくる。どれから食べようか、幸せな悩み© KBS京都/TOKYO MX/BS11

アフタヌーンティーでは、シェフパティシエールのセンスが光るスイーツとセイボリー(甘くない軽食)が色とりどりにスタンドに並ぶほか、スコーンや季節代わりのデザートも。京都限定の緑茶ベースのフレーバーティー「ワンナイト イン キョウト」を始め、フォション自慢のさまざまなオリジナルティーを食事中何度でもいただくことができます。季節や行事に合わせて多彩なテーマで展開され、訪れたこの日は、福岡産のブランドいちご「あまおう」をふんだんに使いつつ、バレンタイン気分も取り入れた華やかなメニュー。一つ運ばれてくるたびに、常盤さんも私も思わず顔がほころびました。

あまおう尽くしのアフタヌーンティーの最後を飾る「あまおうのミニパルフェ」。目の前でチョコレートソースをかけていただける© KBS京都/TOKYO MX/BS11

「フォション」のスイーツや紅茶、ジャム、ワイン、オリジナルグッズなどが並ぶ「パティスリー&ブティック」は、宿泊客はもちろん、手土産やギフトを求めて訪れる人でにぎわっていました。世界のトップメゾンが、京都の食と文化の知恵を取り入れながら創意工夫を凝らした、最先端のスイーツ。そんな体験ができるのもまた、京都が洋菓子の都である理由です。

「パティスリー&ブティック」の内装やラインアップを楽しむ常盤さん© KBS京都/TOKYO MX/BS11

季節をいただくこと。作り手の美学ともてなしの心が詰まっていること。伝統と新しさ、どちらも味わえること。京料理や和菓子と同じように洋菓子にも、京都の粋が宿っています。眺めるだけでも心が満たされ、足を運び、味わえばさらに幸せになる。古都のスイーツ探訪を「京都画報」でぜひご視聴ください。

【次回放送情報】
■京都画報 第29回「京都・極上スイーツ旅 -京都在住女性ライターいち推しの名店-」
BS11にて2月12日(月・休)よる7時00分~7時55分放送
出演:常盤貴子

※ 放送後、BS11+にて2月12日(月・休)よる8時~ 2週間限定で見逃し配信いたします。

この記事を書いた人
大橋知沙 おおはし・ちさ 編集者・ライター
 
東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。 京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。 朝日新聞デジタルマガジン&Travelの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。  

朝日新聞デジタルマガジン&Travelに掲載
(掲載日:2024年2月6日)

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