ここからしか見えない京都
  
©KBS京都/TOKYO MX/BS11

歴史的な名建築を巡る

千利休が残したわずか二畳の茶室

大規模な空襲を免れたことから、神社仏閣をはじめ、明治から昭和にかけての建築物が今も残り、歴史的な街並みを維持する京都。100年以上前に建てられた個人住宅も多く、街の景観に趣(おもむき)を添えています。そこで今回は、常盤貴子さんが京都工芸繊維大学名誉教授の中川理(なかがわ おさむ)さんとともに、京都で大切に守り継がれている住宅建築の名作を巡ります。

京都市の西、大阪府と境を接する大山崎町は、国宝や重要文化財の建物が集まる、知る人ぞ知る名建築エリア。室町時代後期に創建された臨済宗東福寺派の妙喜庵(みょうきあん)には、重要文化財の書院に接する国宝の「待庵(たいあん)」があります。わび茶を大成させた千利休が、唯一残した茶室と伝えられ、数寄屋造りの原点といわれています。それまでの茶室は四畳半が一般的でしたが、待庵は利休のわびの要素が詰め込まれたわずか二畳の空間で、究極の世界観が表現されています。

妙喜庵の茶室「待庵」。利休が秀吉のために設けたとも伝えられている ©KBS京都/TOKYO MX/BS11

日本の住宅の礎「聴竹居」

待庵から歩いて数分の住宅地には、日本の住宅建築における記念碑的な名建築、聴竹居(ちょうちくきょ)があります。こちらでは聴竹居倶楽部代表理事の松隈章(まつくま あきら)さんが案内。竹中工務店に勤務するかたわら、1996年から聴竹居の保存活動に携わり続けています。

建築家・藤井厚二(ふじい こうじ)は、東京帝国大学を卒業後、竹中工務店に入社。約6年の在籍期間中に先駆的なオフィスビルの設計を手がけました。退社後、京都帝国大学工学部建築学科の教壇に立ちながら、環境工学の研究に取り組みました。大山崎町の広大な山林を購入し、宅地として整備。自らが住む住宅を実験住宅として建てていき、1928年(昭和3年)、5回目に建てたのが聴竹居です。2017年、建築家が自邸として建てた「昭和の住宅」として、初の重要文化財に指定されました。

山林を宅地に整備して建築された聴竹居。当時は桂川、宇治川、木津川の合流を望む絶景の地だった ©KBS京都/TOKYO MX/BS11

和と洋が調和した快適な居住空間

聴竹居は、藤井が家族と暮らした「本屋(ほんや)」、本屋北にある離れの「閑室(かんしつ)」と、「茶室」の3棟で構成されています。本屋は家族が集う居室、いわゆるリビングが中心になるように設計されています。現代の住宅では一般的ですが、当時としては斬新な間取りでした。和と洋が見事に調和したデザインも大きな特色です。また環境工学の専門家である藤井は、科学的なアプローチで日本の気候風土、とりわけ夏に快適に暮らすための工夫を随所に施しています。そのひとつが導気口。外から流れてくる冷気を、室内に取り込むための装置です。また縁側はサンルームとしての役割を果たし、光をふんだんに取り込む横連窓(よこれんそう)は、風景を額縁のように切り取ります。当時の最先端テクノロジーが詰め込まれた調理室や、居室とゆるやかに区切られた食事室など、デザイン性を考慮しながら、機能性を重視した快適な居住空間が広がります。

本屋の中心となっている居間。畳に座った人と椅子に座った人の目線が合うよう小上がりが作られており、和と洋の生活が共存している ©KBS京都/TOKYO MX/BS11
庭園の自然を額縁のように収める縁側。採光にこだわった設計で、サンルームの役割も果たした ©KBS京都/TOKYO MX/BS11

藤井が一人で過ごす書斎として建てられた閑室は、数寄屋風。網代(あじろ)や、萩などが用いられた天井など、細部に至るまで凝ったデザインが施され、客人をもてなすこともできる空間になっています。

藤井は生涯で50以上の建物の設計を手掛け、その多くが住宅でした。京都市内にはそのいくつかが残っており、唯一見学ができるのが左京区北白川の旧喜多邸。京都帝国大学の同僚で、工業化学の研究者だった喜多源逸(きた げんいつ)のために設計しました。およそ300坪の敷地に建つ、木造瓦葺きの2階建てで、国の有形文化財に指定。現在は北欧のヴィンテージ家具などのプライベートギャラリー「Relevant Object」(レリヴァント・オブジェクト)の展示スペースとして活用されています(来訪は事前予約制)。藤井が設計した空間に、ヴィンテージデザインがしっくり馴染みます。

一部改築はされているが、母屋部分はほぼ竣工当時のままだという喜多邸。施工は聴竹居と同じ大工が手掛けている ©KBS京都/TOKYO MX/BS11

【次回放送情報】
■京都画報 第33回「訪ねてみたい京の名邸 -限定公開の住宅遺産-」
BS11にて6月12日(水)よる8時00分~8時55分放送
出演:常盤貴子

※ 放送後、BS11+にて6月12日(水)よる9時~ 2週間限定で見逃し配信いたします。

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旅行読売出版社 メディアプロモーション部
 
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