江戸前とはまた違った寿司文化が根付く京都。今回は常盤貴子さんが新たな京の寿司に出合います。
東山区の石塀小路(いしべこうじ)にある「菊乃井 鮨『青』」は、2024年6月、名料亭「菊乃井」がプロデュースして開店しました。「京都でしかできない寿司を出す」がコンセプトで、3代目主人の村田吉弘さんのこだわりが詰まった特別な空間で寿司を楽しむことができます。カウンターの後にある食器棚に並ぶ器は、村田さんが長い時間をかけて集めたという北大路魯山人のもので、もちろん料理にも使われています。料亭らしく懐石のように先付、椀物を供し、それから寿司が登場します。その寿司も、創意工夫に満ちた逸品ばかり。たとえばマグロの赤身。通常より薄く切ったネタを2枚重ね、1枚は軽く漬けにして味に変化をつけています。また剣先いかのにぎりは、硬い皮をそぎ落とし、柔らかい身だけを使ったぜいたくな一貫です。ファストフード的ではない、きちんとした料理としての寿司。料理人の矜持(きょうじ)が感じられます。
創業から40年、長く地元の人たちに愛される左京区の「下鴨 いち満(ま)」には、見た目が愛らしい名物寿司があります。ひと口サイズの小さなにぎり寿司が12個のった手まり寿司。楽屋見舞いや手土産としても重宝されています。店主の奥野尚司さんの祖父が、お水屋見舞いや祇園町のお茶屋の注文により、舞妓さんでも食べやすいようにと小さくお寿司を握ったのが始まりとか。ネタは旬のものを中心に、見た目の彩りも考えて取りそろえています。最近では若い女性客も増えているのだそう。
左京区の閑静な住宅街に、いなり寿司とのり巻きの弁当「助六寿司」の専門店「万里小路 中村屋」があります。創業70年、伝統の味を受け継ぐのは3代目の中村一郎さん。中村屋が長く愛される理由は、その丁寧な仕事ぶりです。いなり寿司の油揚げは何度も湯がき、油抜きを徹底。湯がいた油揚げを絞って、また湯がく…。これを4~5回繰り返して、油の臭味を消し、味染みをよくします。味付けは醤油と砂糖のみ。油揚げと水を入れた釜に調味料を加え、3日かけてじっくりと味をしみ込ませていきます。また、のり巻きに使うたくあんは皮をむき、かっぱ巻きのキュウリも水っぽくならないように種を取り除いて食感を良くしています。シンプルながら、手間暇をかけた中村屋の助六寿司。華やかな舞台を支える裏方に愛される絶品のおいしさです。
八坂神社の門前にある「いづ重(じゅう)」は1912年創業。京寿司の名店「いづう」で修業した初代・重吉が独立して店を開店、名物は対馬沖でとれたマサバを使った鯖寿司です。上質な昆布で巻いて、うま味と風味を引き立てた鯖寿司は「ハレの日のごちそう」として祇園の人たちに愛されています。4代目の北村典生さんが考案した、新たに定番となった寿司が「ぐぢ(甘鯛)姿寿司」です。甘鯛は五島列島沖でとれた最高級品で、その半身を惜しげなく使い、とろろ昆布をからめて味わいます。頭から尾の先までうま味が詰まった身は余すところがなく、うしお汁やひれ酒にも調理。寿司と合わせて味わえば、甘鯛のおいしさを存分に堪能することができます。
【次回放送情報】
■京都画報 第37回「ハレの日彩る京の寿司-変わらぬ味・進化する味-」
BS11にて10月9日(水)よる8時00分~8時53分放送
出演:常盤貴子
※ 放送後、BS11+にて10月13日(水)正午~ 2週間限定で見逃し配信いたします。