京料理の名脇役である醤油や味噌。歴史とともに育まれてきた伝統の味を求め、常盤貴子さんが蔵元を訪ねます。
京都御所の西、住宅街に白い土蔵が立ち並ぶのが澤井醤油本店。1879年創業、現在は5代目の澤井久晃(ひさてる)さんが、その歴史を守り継いでいます。看板商品は「二度熟成醤油」。1年かけてできた生の醤油に、さらに大豆と小麦を入れて熟成させて、2年もの歳月をかけて仕上げる贅沢な醤油です。再仕込みすることで、旨みと風味が濃く、料理にコクを出したいときに使うのがおすすめだとか。醤油づくりの原料は主に大豆、小麦、塩の三つ。春に大豆と麦に麹菌をつける仕込みを行い、できた麹に塩水を混ぜたもろみを樽に移し、微生物の力で発酵させていきます。杉樽の表面には無数の小さな穴が開いており、そこに菌が棲みついて、この樽ならではの深みや風味を生み出すのだそう。蔵ごとに味が違うのは、こんな訳があったのですね。
右京区・西京極には澤井さんの妻、宏美さんが立ち上げた醤油スイーツの店「Key Stone(キーストーン)」があります。名脇役である醤油の可能性を広げたいと、店には醤油を使った多彩なアイデア商品が並びます。澤井醤油の醤油をブレンドしたタレに漬け込んだ冷やしみたらし、二度熟成醤油がコーティングされた、一口サイズの醤油クロワッサンパイ、醤油とミルク味が程よくマッチした醤油ジェラートなど、意外な組み合わせが人気を集めています。
上京区・西陣にある1933年創業の「天㐂(てんき)」も、澤井醤油本店の醤油を使い続ける老舗です。天ぷらと京料理を融合させ、日本で最初に天ぷら会席として提供したのだとか。伝統に培われた京料理と醤油とのマッチングを、常盤さんも楽しむことに。お造りは澤井醤油の濃口醤油を柑橘で割ったポン酢風で、マグロは淡口(うすくち)醤油に黄身を溶いた黄身醤油で味わいます。炊き合わせは素材の良さを引き立てる、料亭用の特別な淡口醤油を使用。昔ながらの醤油の味をしっかりと守ることで、料理人もそれを信頼し、名舗の味を今に受け継いでいるのです。
西陣の住宅街の一角にあるのは、完全天然醸造の味噌づくりにこだわる「加藤みそ」。現在は4代目の加藤昌嗣(まさつぐ)さんが、1917年の創業から蔵を守り続けています。こちらで使っている樽、実は100年以上前に澤井醤油から受け継いだものだそう。京都では酒蔵で使われていた樽を醤油蔵が譲り受け、そこから味噌蔵が譲り受ける文化が残っているのだとか。使い込んだ樽だからこそ、いい菌が棲み、この蔵ならではの味が出せるそう。味噌の原料は主に米麹、大豆、塩ですが、味の決めてとなるのは米麹。手間のかかる米麹は機械での生産が進んでいますが、加藤さんは手作りにこだわっています。米麹ができたら、大豆、塩を混ぜて樽の中で1年以上熟成。雑菌を混入させないために、一度仕込んだらできあがるまで蓋を開けません。微生物の力にゆだね、ゆっくりと醸していきます。
左京区花背(はなせ)にある料理旅館「美山荘(みやまそう)」で生まれた大原千鶴さんは、各メディアで活躍する料理研究家。今回は澤井さんの二度熟成醤油、加藤さんの白味噌を使った家庭料理や、京都生まれのゴマ、マスタードを使ったおばんざいを作っていただきました。素材と調味料のマリアージュ…。常盤さんも京料理の魅力をたっぷりと堪能しました。
【次回放送情報】
■京都画報 第42回「京都・味の名脇役たち ―しょうゆ・おみその話―」
BS11にて3月12日(水)よる8時00分~8時53分放送
出演:常盤貴子
※ 放送後、BS11+にて3月12日(水)よる9時~ 2週間限定で見逃し配信いたします。