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動く山鉾、3年ぶり 祇園祭にかける思い

この夏、3年ぶりに祇園祭最大のハイライト「山鉾巡行」が復活します。新型コロナウイルスの影響で中止となった2020年以来、京都の人々が待ち望んでいた動く山鉾(やまほこ)。昨年は、いくつかの山・鉾の組み立てや試し曳(ひ)きのみが行われ、鉾建てを行う作事方(さくじかた)も、足を止める観衆も、同じ願いを胸に山鉾を眺めていました。

「来年こそ、山鉾巡行を復活させる」

ようやく、京都の夏にあの活気とコンチキチンの音色が帰ってきます。

7月17日の「前祭(さきまつり)」、24日の「後祭(あとまつり)」ともに「山鉾巡行」が復活する © KBS京都/BS11

ところで、祇園祭とはどういう祭りかご存じでしょうか?

都に水害や疫病といった災いを引き起こす怨霊を鎮めるための「御霊会(ごりょうえ)」が、祇園祭の起源といわれています。869(貞観11)年6月、国の数と同じ66本の矛(ほこ)を立て、祇園社(八坂神社)から神輿(みこし)を送って疫病退散を祈願したことに、こんにちの祇園祭の原型が。やがてこれが定例化し、町衆(まちしゅう)文化の発展とともに、祭の規模も大きくなっていきました。

例年、京都市役所前から御池通一帯は有料観覧席が設けられる © KBS京都/BS11

「山鉾巡行=祇園祭」と誤解されることも多いですが、祇園祭は実に1カ月もの間、さまざまな神事が執り行われる祭礼。7月1日の「吉符入り」に始まり、2日に巡行の順番を決める「くじ取り式」、10日から徐々に鉾・山建てが始まり、13日には長刀鉾の稚児が八坂神社に社参します。山鉾巡行の3日前からは「宵山」という、各山鉾でお囃子(はやし)を奏でて厄除け粽(ちまき)や御朱印の授与を行い、露店なども立ち並ぶお祭が。煌々(こうこう)とちょうちんが灯(とも)り、「コンチキチン」のお囃子と人々の熱気が混じり合う夜が明ければ、いよいよ山鉾が動き出します。

山鉾巡行、最大の見どころは?

「山鉾巡行」の朝、どこか夢心地のような宵山のムードからは一変、四条通りは張り詰めた緊張感と神聖な雰囲気に包まれます。例年、大勢の見物客でにぎわう巡行は、最大の見せ場や所作が人混みで見えないこともしばしば。生中継の映像は、その様子をつぶさに見られると楽しみにする京都人も少なくありません。

鉾と山の違いは、鉾は「鉾頭」という各鉾のシンボルが付いた「真木」が中心に据えられ高さは約25メートルにも及ぶ。山には「真松」が供えられ、その多くは松の木。ただし、山の中でも曳山(ひきやま)は鉾と同じ形で高い松が供えられている © KBS京都/BS11

まず、見逃せないのが巡行の前に行う「くじ改め」。7月2日にくじで決定した巡行の順番を確認する儀式です。各山鉾の行司が、くじ札の入った文箱(ふばこ)を奉行役(京都市長)に差し出し、手を使わずに扇子で紐(ひも)をほどきます。蓋(ふた)を開け、奉行役がくじを見定めて順番を確認すると、行司は扇子を広げ、山鉾を呼ぶ合図を送る――。このキリリとした所作は、何度見ても感嘆のため息をもらさずにはいられません。

長刀鉾の稚児が太刀で結界を切る「注連縄切り」の瞬間は、最大の見どころの一つ © KBS京都/BS11

現在では唯一の生稚児(いきちご)が乗る長刀鉾。くじ取らずとして必ず先頭を進み、稚児が神と人間の領域との結界を表す注連縄(しめなわ)を太刀で切って、巡行はスタートします。祭の緊張感がピークに達するこの「注連縄切り」も、最大の見どころの一つ。「神の使い」として大役を全うする稚児の凜々(りり)しい表情は見逃せません。

四条河原町・河原町御池・新町御池の3カ所で行われる「辻廻(まわ)し」。掛け声とともに、重さ10トンを超える山鉾が方向転換する光景は息を呑(の)む迫力 © KBS京都/BS11

巡行がスタートすると一基一基、鉾と山の特色や歴史、絢爛(けんらん)豪華な装飾品にも目を奪われます。「動く美術館」とも称される山鉾は、各町が競うように独自の意匠を凝らし、育んできた町衆文化の結晶。舶来品の絨毯(じゅうたん)やタペストリーを飾るもの、稚児人形やからくりを乗せたもの、舞を奉納するもの……と多種多様です。

「辻廻し」は、車輪の下に割り竹を置き滑らせるようにして方向転換する © KBS京都/BS11

そして、それら山鉾が90度回転して角を曲がる「辻廻し」が行われると、盛り上がりは最高潮に。「ヨイヨイヨイトセ ヨイトセ」の掛け声とともに、巨大な山鉾が人の力のみで方向転換します。山鉾の車輪は向きを変えることができないので、車輪の下に割り竹と水を撒(ま)き、滑らせるようにして方向転換しなければなりません。何回で向きを変えられるかが、各町の腕の見せどころ。見事「辻廻し」が成功すると、沿道からは拍手喝采がわき起こります。

約200年ぶりに復活の鷹山

17日の山鉾巡行までは「前祭(さきまつり)」。懸装品(けそうひん)やお囃子で街中の悪霊たちを惹(ひ)きつけ、神様の通り道を清めて、八坂神社からの神輿(みこし)を迎えます。

荘厳華麗な山鉾が巡行することで街中の悪霊を集め、神輿の通り道を清める意味を持つ © KBS京都/BS11

神輿は7日間「御旅所」にとどまり、24日に再び八坂神社へと還(かえ)す「神輿渡御」が行われます。この「神輿渡御」の前に、再び山鉾が巡行して帰り道を清めるのが「後祭(あとまつり)」の山鉾巡行です。長らく巡行は「前祭」にまとめられていましたが、復活を望む声から2014年に「後祭」が再開。八坂神社からは花傘をかぶった女性の行列や鷺舞などが彩りを添える「花傘巡行」が出発し、「後祭」の山鉾は「前祭」のルートとは逆に巡行します。

約200年ぶりに復活する「鷹山」。巡行への参加に向けて試し曳きが行われた © KBS京都/BS11

今年、「後祭」で大きな注目を集める曳山が、約200年ぶりに復活を遂げる「鷹山」です。応仁の乱(1467~77年)以前から巡行していた歴史を持ちながら、災禍で消失。残された御神体を祀(まつ)る「居祭」を続けていましたが、近年「鷹山」に縁ある人々が集まり、文献や史料を元に再建するという挑戦が始まりました。山の全貌(ぜんぼう)はもちろん、釘を使わず縄だけで木材を組み上げる「縄がらみ」も、「辻廻し」もお囃子も、何もかもゼロからのスタートです。保存会の発足から、巡行にこぎつけるまで7年。試し曳きを経て、ついにこの夏、姿を現します。

各町が趣向を凝らした山と鉾。多彩な懸装品や意匠、見せ物の数々には、神様も自らも楽しもうという「神人和楽(しんじんわらく)」の心が宿る © KBS京都/BS11

6月19日、八坂神社の舞殿では、本番を間近に控えた鷹山の囃子方による奉納演奏がありました。浴衣と同柄のマスクを身につけ、約200年ぶりの鷹山の復活と3年ぶりの巡行再開を目前に、奏でる祇園囃子は祈りの音色です。千年の昔から、人々はこうして自ら観衆や神様を喜ばせようとしてきたのでしょう。豪華な美術品も、舞やお囃子も、辻廻しも、そこに宿るのは人々が祭を楽しんできた歴史そのものです。

さあ私たちも、3年ぶりに動く山鉾の姿を大いに楽しもうではありませんか。

■生中継 祇園祭山鉾巡行 前祭・後祭2022
放送日時:
【前祭】7月17日(日)午前9時~11時30分
【後祭】7月24日(日)午前9時~11時30分
※BS11(イレブン)にて放送

出演者
【前祭】
ゲスト:鶴田真由(俳優)
解説:村上 忠喜(京都産業大学 文化学部教授)
実況:梶原誠(KBS京都アナウンサー)
リポーター:遠藤奈美(KBS京都アナウンサー)、海平和(KBS京都アナウンサー)
【後祭】
ゲスト:三田寛子(俳優/タレント)
解説:八木透(佛教大学歴史学部教授)
実況:梶原誠(KBS京都アナウンサー)
リポーター:遠藤奈美(KBS京都アナウンサー)、海平和(KBS京都アナウンサー)

制作著作 KBS京都/BS11
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この記事を書いた人
大橋知沙 おおはし・ちさ 編集者・ライター
 
東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。 京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。 本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。  

朝日新聞デジタルマガジン&Travelに掲載
(掲載日:2022年7月5日)

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